『カーネーション』『ワンダーウォール』『今ここにある危機とぼくの好感度について』等の作品で高い評価を受ける脚本家・渡辺あやと、『カルテット』『大豆田とわ子と三人の元夫』等の話題作を手掛けてきたプロデューサー・佐野亜裕美が初めてタッグを組んだ『エルピス—希望、あるいは災い—』。
テレビドラマ作品でありながら、テレビ局の決してポジティブとは言い難い内幕を描く、というある種自己批判的な側面を含んでいたことでも話題を呼んだ本作だが、鑑賞を終えたあと、私にはある疑問が残った。
それは、「現実にあった複数の事件の要素をコラージュ的に貼り合わせ、その上で『私の物語』を語ることには、危うさがあるのではないか?」という疑問だ。
物語を構成する、現実にあった複数の冤罪事件
本作では毎回タイトルバックに、「このドラマは実在の複数の事件から着想を得たフィクションです」と表記され、菅家利和『冤罪 ある日、私は犯人にされた』・清水潔『殺人犯はそこにいる 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』・佐野眞一『東電OL殺人事件』など、冤罪事件に関連する9冊の書籍が「参考文献」として挙げられていた。
渡辺は
「ラブコメの企画が行き詰まっていた頃に、佐野さんがある冤罪事件についてのルポルタージュを読ませてくれたんです。私は本当に不勉強で、冤罪って映画やドラマのテーマとしてはよく見るけれど、それは昔の話で、今はもうそんなひどいことは行われていないだろうと勝手に思っていました。たぶん、怖いものは見たくないからそう思いたくて思っていたんでしょうね。それが、佐野さんが持ってきてくださる資料や情報によって、冤罪がまだまだ現在進行形の問題であることを思い知らされた」(「リスクが高い」とどこからも断られた…ドラマ『エルピス』が実現に至るまで(福田 フクスケ) | FRaU (gendai.media))
と語っているが、本作の物語は、これらの文献で言及された複数の事件要素を貼り合わせたような形で構成されている。
劇中では、「八頭尾山連続殺人事件」という連続絞殺事件が発生する。10代の女性3人が殺害されたこの事件において、現場近くに住んでいた板金工・松本良夫が逮捕され、起訴されたのち死刑が確定する。しかしこれは冤罪であり松本は無実なのではないかという疑惑を、主人公であるアナウンサー・浅川恵那と新米テレビ局ディレクター・岸本拓朗が追い始めることから物語が始まっていく。
そしてこの「八頭尾山連続殺人事件」のディテールが、先述したように現実の事件のコラージュのような形で構成されているのである。