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社内恋愛をでっちあげ、虚偽の主張を繰り返す会社

 2014年3月、遺族は会社といじめ加害者である綾奈さんの上司2人に対して、合計約6500万円の損害賠償を求める訴訟を名古屋地裁に提起した。2人のいじめ加害者は長期に渡って陰湿ないじめやハラスメントを繰り返した責任が、会社にはそのような状況を放置し続けて改善するための策を講じなかった責任があると遺族は主張した。

 しかし、会社や加害者(以下、会社側)はいじめの事実を否定するだけでなく、母、佳子さん曰く「でっちあげや嘘の証拠を次々と提出してきた」。その一つが、綾奈さんの死は職場環境が原因ではなく、社内にいた恋人に振られたことが原因だったという会社側の主張だ。

 会社側は「綾奈氏が自殺する直前に(同僚の相手男性)の意思によって交際を終了しており、このことが綾奈氏の自殺の原因である可能性がある」と主張したが、そもそも綾奈さんは振られていないどころか、この男性と交際すらしていなかったのだ。

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 綾奈さんと交際しているとでっちあげられた相手の男性は、裁判で「何より、私は綾奈さんと交際していません……。ここまで根も葉もない嘘をつかれると呆れ果ててものも言えません。亡くなった綾奈さんにとっても名誉毀損だと思いますが、私にとっても名誉毀損ではないでしょうか。非常に不愉快です」と怒りをあらわにしている。

責任回避のために「もともとうつ病になりやすい人格」

 まさに死人に口なしというところだが、会社側にしてみれば、どういう理由でもよいので職場環境以外に自死の原因があり得ると裁判官が判断してくれさえすれば、会社側の「勝ち」なのだ。その際の常套手段が、プライベートでのトラブルを持ち出して、それが自死の原因だと主張する行為だ。

 むしろこういった裁判で、「不倫をしていた」「恋人に振られた」「家族関係が悪かった」などとプライベートでの「問題」について会社側が主張しない方が珍しいかもしれない。しかも社内でプライベートな悩みをこぼしていたことにすれば、同じ会社で働いていない遺族がそもそも検証することができないため、嘘でも好き勝手主張する余地が残されてしまっている。

 その上、会社側は責任回避のために、綾奈さんがもともとうつ病になりやすい人格であったという主張も展開した。裁判で会社側は「綾奈氏の親族にうつ病罹患者がいる事実に照らせば、綾奈氏に自殺親和性が極めて高い素因があったものと認められるべきものであり、過失相殺が適用される事案である旨主張する」と述べている。

 これは、仮に仕事が原因であったとしても、綾奈さんの家族にうつ病になった人(母方の祖父)がいたので、綾奈さんはそもそもうつ病になりやすい人だったのだという意味である。おおよそ職場環境とも、綾奈さん自身のこととも関係があるとは思えないが、この主張の狙いは、綾奈さん個人の要因を裁判所に考慮にいれてもらうことで、会社の責任を認められたとしても、支払わなければならない賠償額を減額させようというものだ。