謝罪しない企業とハラスメント加害者
ただ、裁判で勝訴判決が確定しても、遺族には心残りがあった。というのも、そもそも綾奈さんの両親が今回の訴訟を提起したのは、お金がほしいわけではなく、会社側に事実を認識して謝罪し、二度とこのようなことが起こらないような対策を講じてほしいという思いからだったからだ。
裁判で「勝訴」しても、会社側が賠償金を支払ってしまえば、それで法的な責任は解決したことになる。そこで、両親は判決が確定した後の記者会見で、会社にはきちんと謝罪してほしい旨を主張し、また、合わせて会社側に面談の機会を設けるよう申し入れた。
しかし、会社は「各お申入れにつきましては、本書面をもって、お断りをさせて頂きます」と回答し、謝罪どころか遺族と会うことすら拒否した。最高裁判決が確定した際、会社は取材に対して「最高裁の決定は真摯(しんし)に受け止める」(2018年11月17日 中日新聞)と回答していたにも関わらず、だ。
さらに、ハラスメント加害者の一人に至っては、謝罪や面談を拒否するどころか、「『本判決において、(ハラスメント加害者A)が伊佐間綾奈氏の死亡についての法的責任は認められていない』という事実が正しく報道されるよう求める」と遺族に対して「要求」すら行っている。
加害者のいじめは「損害賠償を支払う必要がある事実」と認定
ちなみにこの点について、確かに名古屋高裁は自死の直接の原因はいじめそのものというよりも、いじめや業務内容の変化など精神的に負担のかかる状況を放置し続けた点にあると判断したが、ハラスメント加害者が行ったいじめは損害賠償を支払う必要がある事実であると認定している。つまり、「自死」に直接関係するとまでは言えないが、それ自体損害賠償に値する不法行為だということだ。また、いじめが単独で自死を招いたわけではないとはいえ、いじめが自死と完全に無関係だと判断されているわけでもない(いじめに対する会社の対処が不十分だったことが自死の原因と認定している)。
それにもかかわらず、「いじめたのは事実だが、それが直接自死につながったとまでは言えない」という裁判所の判断をもとに死について責任がないとハラスメント加害者側が主張するのは、理解に苦しむ。
このような態度では、この会社やハラスメント加害者が反省しているとは到底思えず、また同じような被害が起こってもおかしくないだろう。佳子さんは「ハラスメントを行って娘を死に追いやり、裁判でもそれが認められたにも関わらず、まったく反省する気がない会社やハラスメント加害者には怒りしか感じません」と述べている。