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会社側の責任は自動的には認められない

 このような会社の主張に対して、名古屋地裁は2017年1月、叱責があったことは認めつつもそれが自死の原因だとは言えず、会社にも自死を事前に予見することはできなかったとして、わずか計400万円弱を会社と加害者が遺族に支払うよう命じる「不当判決」を下した。加害者2人からのいじめやハラスメントはあったが、綾奈さんがそれで自死したとは断定できないという遺族側にとってはとても納得できないものだった。

 ここには、ハラスメントやいじめが原因で自死に追い込まれた際に、遺族が会社の責任追及をすることの困難さがよく現れている。本人がハラスメントを受けている際に録音していなければ、職場にいなかった家族が、本人の死後、そういった発言があったと証明することは容易ではない。その場にいた他の社員が証言してくれればまだしも、多くの場合、現職の社員は会社側に立ってハラスメントの事実を否定する傾向にある。

 遺族が「会社でのハラスメントが原因だ」と考えて、行動に移せたとしても、会社側の責任は自動的には認められないどころか、「証拠がない」ことで証明できずに会社側が免責されるケースは少なくない。

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伊佐間綾奈さん(家族提供)

高裁で逆転勝訴できた理由とは

 名古屋地裁の判決に納得できなかった家族は、名古屋高裁に控訴した。すると、名古屋高裁は2017年11月の判決で、「強い口調で注意・叱責をし、同じ注意・叱責を何回も繰り返していたことは、不法行為に該当する」と上司2人の責任を認め、また会社にはそのような行為を放置していただけでなく、そのことで綾奈さんがうつ病を発症して自死したと評価して、会社の責任も認める逆転勝訴判決を下した。

 名古屋高裁が逆転勝訴判決を下した背景の一つには、母、佳子さんが集めた綾奈さんのツイートがあると考えられる。綾奈さんは自身のツイッターアカウントをもっており、そこで趣味や日常生活についてのツイートをしていた。綾奈さんの死後、ツイッターのアカウントを発見した佳子さんは、綾奈さんが精神的に追い込まれるにつれて、悲観的な内容のツイートがみられたり、ツイート数そのものが減少していることを発見し、それをグラフにして裁判所に提出している。裁判所は提出された綾奈さんのツイッター履歴を踏まえて、綾奈さんが亡くなる直前の2012年6月中旬にうつ病を発症していたことを認定した。

 会社は高裁判決を不服として上告したものの、2018年に最高裁が上告を棄却して、遺族の勝訴判決が確定した。