職場でのハラスメントやいじめで娘の伊佐間綾奈さんを亡くした家族が、なんとかその証拠を集めて、労働問題に詳しい弁護士にたどり着くプロセスを見てきた。続いて、いかに会社側が自身の責任を回避するだけでなく、裁判において様々な嘘をでっちあげて遺族を苦しめているかを見ていきたい。(全2回の2回目/前編を読む)
労災ではないと主張する会社
綾奈さんが自死に追い込まれた背景には、上司2人からの継続的ないじめやハラスメントがあった。会社はそのような職場環境を認識しつつも、ハラスメントがなくなるような対策をとらなかった。
伊佐間さん家族は、水野弁護士のアドバイスに従い、まず労働者災害補償保険を申請することにした。綾奈さんの死が労災と認定されれば、業務が原因で死に追いやられたと国が認めることになるだけでなく、遺族に対しては補償金が支払われる。
自死から1年後の2013年6月に労災を申請したところ、会社側は「加野青果株式会社としては、(ハラスメント加害者A)及び(ハラスメント加害者B)が長期にわたり伊佐間綾奈様をいじめた事実や配置転換後支援をしなかったなどの事実はないと考えており、事業主として証明することはできません」という内容の手紙を労基署に提出して、いじめを否定した。
労基署が労災と認定しても、ますます遺族を苦しめ続け…
しかし、労災認定の判断をするために労基署が意見聴取した専門医による、いじめ加害者は「言葉遣いが悪く、注意する時には業務指導の範囲とはいえない発言がなされていること」、また「会社上司は社内のいじめの問題について認識し得る状況があったにも関わらず、何も対処せず、支援もなされていない」こと、そして業務以外に精神疾患を発症する要因がないことなどの見解を踏まえて、2013年12月、名古屋南労働基準監督署長は綾奈さんの死を労災と認めた。
これまで会社は責任を認めてこなかったが、労災が認定されれば態度を改めるだろうと遺族は思っていたという。そもそも、この会社ではいじめだけでなく、固定残業代を用いた残業代不払いという労働基準法に違反する行為も確認されており、さまざまな労働問題が発生していた。国の労災認定という判断によって、会社の職場環境が改善されるのではないかという期待を遺族は抱いていた。
しかし現実にはそうならなかった。損害賠償を求めて遺族が会社を訴えた裁判で、会社側は反省するどころか、ハラスメントやいじめの録音などの物的な証拠がないことをいいことに、労基署が事実と認定したことや実際に社内で起っていたこととは異なる主張を繰り返し、遺族を苦しめることになる。