住民の高齢化も進み、甲斐さんの母も酒屋とガソリンスタンドを畳んだ。
次の春までには…少しずつ見えてきた希望の光
だが、美香さんは空き店舗を再生しただけでなく、旧ガソリンスタンドの敷地にキッチンカーなどを招いて「Sokiマルシェ」というイベントも始めた。これに触発されたのか、禅寺でも美香さんが手伝うなどして「寺マルシェ」がスタートした。
取材に訪れたちょうどその日、甲斐さんと美香さんは、どのような店なら再スタートできるか、業者と打ち合わせをしたところだった。資金面の不安もあり、不透明な部分もあるが、春までに店を再開できる可能性が出てきたという。
一方、曽木地区には曽木川の氾濫で浸水した場所もある。
その一角で営業していた「百貨店」という名のよろず屋では、ボランティアが作業をしていた。
熊本県熊本市の中村徳佳さん(41)と、同県益城(ましき)町の山下辰徳さん(40)だ。自宅から曽木までは約100kmも離れているが、月に1度ほど通っている。
ボランティアというと、地域の社会福祉協議会が募集し、作業は泥のかき出しまでで終了というのが定番だ。しかし、「その後も復旧・復興までには、いくつものハードルがあります。私達はそうした被災者に寄り添い、手伝い、復興を見届けたいと考えています」と中村さんは語る。
取材に訪れた日は、床を塗装し直すための作業の真っ最中だった。山下さんは「こうして地域の核となる店を1日でも早く再開させることが、曽木の復興につながるのです」と手を休めるのも惜しそうに話す。
被害の深刻さがあまり知られていない台風14号災害だけに、よそから来て、地道な活動をしてくれるボランティアの存在は、多くの被災者の励みになるのではなかろうか。
山下さんは「実は私自身も熊本地震(2016年4月)で被災しました。当時は人のことなど考える余裕はありませんでした」としみじみ話す。
「だからこそ、次に誰かが被災したら、順送りで手助けをしていく。毎年どこかで大きな災害が起きるだけに、ある時には助けてもらい、ある時には助けていくという形での助け合いが、必要な時代なのです」と中村さんは言う。「そのためにも、台風14号災害の実情を広く知ってもらいたいと思います。ぜひ伝えてください」。2人は力を込めた。
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