活かされたのは2005年の教訓だった

 全国26県を被災させた2022年9月の台風14号。

 宮崎県では、北部を流れる五ヶ瀬川流域の被害が大きかった。

 雨量が多かったのは山間部だが、河川の中下流部でも多くの建築物が浸水したのである。

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 五ヶ瀬川は、熊本県境にそびえる向坂山(標高1684m)に源流を発する。日本最南端の「五ヶ瀬ハイランドスキー場」(宮崎県五ヶ瀬町)が設けられた山だ。国の名勝・天然記念物の高千穂峡(高千穂町)をへて、日向灘に注ぐまでの流路延長は106kmある。

 その中流部から下流部にかけて広がる延岡市は、台風14号による浸水戸数が宮崎県内で最も多く、床上浸水が318 棟、床下浸水が189棟にのぼった(宮崎県まとめ)。

五ヶ瀬川があふれて、身長以上の高さまで家を呑み込んだ。川には大木が残されている(延岡市北方町)©葉上太郎

 そのうち北方(きたかた)町では、市役所の出先機関・北方総合支所が入居している「北方町文化センター」が2.5mも水没した。ただ、総合支所の事務室は浸からなかった。「教訓」が生きたのだ。

 五ヶ瀬川の流域で人々の記憶に刻み込まれた災害は、2005年9月の台風だ。上流部の高千穂町で5人が犠牲になり、高千穂町と延岡市を結ぶ第三セクター「高千穂鉄道」も橋梁が流されるなどして廃線になった。

 北方町は平成大合併で延岡市に編入された町だ。当時は合併直前で、職員は2階建ての北方町役場で災害対応に当たっていた。だが、すぐ近くを流れる五ヶ瀬川があふれ、3mの深さに浸水。町役場は1階が完全に水没してしまう。職員は孤立した2階に取り残された。

2005年の台風で1階が完全に水没した旧北方町役場(延岡市北方町)©葉上太郎

 こうした事態への反省から合併後、町役場が衣替えした総合支所は、「2階に上げようという話になりました。そこで隣の文化センターへ移したのです。以前はコミュニティーホールとして使っていた2階を事務室にしました」。北方総合支所の地域振興課、日髙範孝・課長補佐が経緯を説明する。

 これら市役所での対策の一方で、五ヶ瀬川の治水対策も進んだ。

「家にいたら生きた心地がしなかった」

 同総合支所で防災施策を担当する地域振興課の甲斐正輝・総括主任は「2005年の台風災害後、総合支所のある旧北方町の中心部では、国が五ヶ瀬川の堤防を4m嵩(かさ)上げしました。このため、今回は五ヶ瀬川からの越流はありませんでした。ところが、総合支所の近くを流れる小さな川の水が、五ヶ瀬川に吐けなくなり、内水氾濫で浸水してしまったのです」と話す。

 文化センターが2.5mも水没したのは、そのせいだ。だが、災害対策の司令塔となる総合支所は2階にあり、浸からなかった。水が引くと、すぐさま職員が活動できたのは、前回との大きな違いだった。