出会った20代、あの頃すごくもやもやとしていた
辻本 本当に森山未來には、僕自身が成長させられたと思ってるの。僕がダンスに深く向き合えたのは、彼と出会って、「役者とは何か、芝居心とは何か」をずっと話してきたことが大きい。
出会った頃のことで印象的なのが、ドン・キホーテ事件。あの話、していい?
森山 いいよ別に。
辻本 一緒にドン・キホーテに、ワンちゃんのペットフードを買いに行った時のこと。隣で未來がパーカーのフードで顔を隠していたの。僕はびっくりして「何それ、芸能人?」って言って、「俺の横でそんなことするの? マジで恥ずかしいから絶対やめて」と伝えたことがあった。
他人を遮断していたし、人と触れ合いたくないことが伝わってきて、ちょっと辛そうだった。こんなふうに追い込まれるなら芸能界の道は嫌だなとも思ってしまった記憶がある。
その後、未來は180度変わったけど。
森山 「RENT」で出会った頃の20代の話ですけど(笑)、あの頃すごくもやもやとしていたんですね。
僕は幼少期からダンスをずっとやっていて、ジャズ、タップ、ストリート、バレエなどを高校卒業するまで続けていたんだけど、東京に出てきたら、急に映像や商業系の舞台に引っ張られていって、踊る機会が持てなくなっていた。ダンスは日々鍛錬あるのみの世界だと思っていたから、1日、1日離れていくことに、もう戻っていけない恐怖がどんどん増していって、僕自身、身体にどう向き合えばいいのか、ものすごく手探りでした。
僕は、トモさんによってコンテンポラリーという概念に出会ったって思ってるんだけど、「RENT」の主役マークという役は、もとのオリジナルは奥手の大人しいキャラクターだけど、演出のエリカ・シュミットがイメージを刷新して、冒頭から踊りまくる役になった。
稽古場でトモさんに言われて新鮮だったのが、例えば「ピルエット」というクルクル回るバレエの動きで僕がバランスを崩した時、「あっ失敗だ」と思って止まってしまったら、「いや、そっからやんか。崩れたなら、そこからどういう風に次の身体にアプローチできるのかが大事」だと。そういうコンテンポラリーの発想を僕は全く知らなかったので、本当に目からウロコでした。
ドン・キホーテでの出来事なども含めて、その言葉で一つひとつ殻を割られていった。
辻本 当時は僕も若かったし、よく人に牙をむいていたから、きついことも率直に伝えていたと思う。でもシルク・ドゥ・ソレイユの公演から帰国したあとは、なるべく牙を自分に向けるようにしていたけれど(笑)。