学校でも上位の体躯と強さを持っていたが、そのパワーを受け止めるどころかはねのけられるのは兄だけだったということだ。有は、そんな翔を厳しくしつけたという。
「僕がちょっとでも調子に乗ると、兄貴にしばき回されるんです。僕に一番厳しかったんじゃないですかね」
歯止めの兄がいなくなって悪事に居場所を求めた
父の経歴からすればサッカー一家になりそうな環境だが、兄は野球に進み、小学校からサッカーに向かったのは翔だった。
「子供の頃から冷めた目で周りを見ていた」
という翔は自己客観能力の高い子供だった。周囲は翔を「うまい」と褒めるものの、チーム内には絶対に勝てない子供が2人はいた。一番になれない分野に興味を持ち続けることはなかった。
中学に上がると同時に、「俺には向いてない」と思い、翔は、こっそりとサッカーに見切りをつける。保健室で授業をサボっていると、兄が入ってきてしばかれて教室に連れ戻されたこともあった。
だが兄弟の関係に転機が訪れる。兄は中学3年生の時、全国に名を知られる選手になっていた。大会が終わった兄に、野球漬けから解放される短い余暇がやってきたのである。髪の毛を伸ばして、染める…そんな普通の少年のおしゃれを楽しむことができたが、その兄は卒業後、東北高校へと進学してしまう。
教育係の兄がいなくなった翔は、一気に遊びへと向かう。
「サッカーに行くと言ってはゲームセンターに行くという小細工をしはじめました」
バイクを乗り回している翔と同じ「やんちゃくれ」と、遊びに明け暮れるようになった。ダルビッシュ家には「1度始めたことは最後まで」という厳しいルールがあった。ところが翔はこれを守らない。家に帰れば怒られるということで、家出を繰り返すようになる。
「今思えば、兄が歯止めになっていたのかもしれない」
自分では絶対に倒せない「壁」を喪失して力を持て余した翔は、遊びとケンカに明け暮れる。悪いことをすると先輩や友人が、「お前、やんちゃやな」と評価してくれることが嬉しかった。
「ここが自分にとっての一番の居場所だと感じた」
こうして悪い行いが加速していったのである。だが保育園、小学生では両親が謝罪することで許されていたことは、徐々に許されなくなっていった。
教師を蹴って人生初の逮捕
中学2年生の夏になる前、13歳の翔は問題を起こして児童相談所に連れていかれる。初めての施設経験だったが、その後、児相送りを繰り返して中学2年を過ごす。