『テヘランからきた男 西田厚聰と東芝壊滅』(児玉 博 著)

 読了し、思わず「切ないなぁ」と独りごちた。

 故・西田厚聰(あつとし)氏は東大大学院で西洋政治思想史を学び、イラン人留学生と結婚。東芝のイラン現地法人に中途採用された。出世の過程は立志伝として読める。けれども、気がつけば……。

 東芝の凋落は、米原発メーカーのウェスチングハウス(WH)を相場の二倍超もの約6400億円で買ったことから始まる。西田氏は社長として買収の陣頭指揮をとった。しかし東芝はWHの経営を掌握できず、福島原発事故で世界の原子力事業が失速しても方向転換できないまま、赤字を垂れ流す。不正会計に手を染め、子会社のWHに資金を吸い取られ、解体に至った。

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 西田氏は、東芝崩壊のA級戦犯といわれる。なぜあれほど高値でWHを買ったのか。二度目の入札で東芝は2700億円で落札し、経済産業省に「勝ちました」と連絡を入れている。

「ところが、翌日になって売主から連絡が来た。日本のある企業から思い切った金額を出したいから、もう一度入札をやりたいと。その企業? そりゃ、(三菱)重工ですよ。重工しかないんだから。こんなことは国際的な商慣例でもおかしなことですよ。僕はやりたくないと言ったんだ。だから無理矢理、重工のために3回目のビットに引きずりこまれたんですよ」

 と、西田氏は高値掴みをライバル社のせいにする。だが、それまでWHと組んで原発をつくってきたのは三菱だ。新型炉もWHと三菱が開発している。WHを奪われそうな三菱の抵抗は予想できたはず。WHは北朝鮮の軽水炉開発にも関わった政治色の濃いメーカーだ。「原子力ルネッサンス」の旗を振る経産省の介入はいかばかりか。このインタビューの2カ月後に西田氏は逝った。墓に運んだ秘密はもう二度と語られない。何もかも切ないのである。

 最近、東芝は寄生体のようなWHをやっと売却できたが、前途多難だ。東芝と西田氏の蹉跌を、この国は教訓にできるのだろうか。

こだまひろし/1959年、大分県生まれ。大学卒業後、フリーランスとして取材活動を行う。2016年、『堤清二「最後の肉声」』で第47回大宅壮一ノンフィクション賞・雑誌部門を受賞。著書に『“教祖”降臨』など。
 

やまおかじゅんいちろう/1959年、愛媛県生まれ。ノンフィクション作家。著書に『神になりたかった男 徳田虎雄』など多数。

テヘランからきた男 西田厚聰と東芝壊滅

児玉 博(著)

小学館
2017年11月15日 発売

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