このときはさすがに落ち込みました。人生これで終わり、正直そう思いました。ところが担当の浅井先生は、今回もケロッとして、
「今回も治療法は外科手術か放射線の2つですね」
という。再発=死と思っているのは私だけで、先生にとっては普通の治療のようなのです。
たしかに、発見されたがんの大きさがたった9ミリというのには、私も驚きました。これまでの常識では、こんなに小さながんは発見できなかったのですから。
小さなうちに発見できれば、手術をするにしても、放射線で叩くにしても、治療の成績は良くなります。QOLの維持も楽になります。がん治療にとって、早期発見は最重要の課題であることを、私はあらためて感じました。その点で、昔と今とでは、転移したがんの早期発見は異次元のステージになっています。その最大の原因は、やはりCTの普及でしょう。
レントゲンフィルムという二次元のデータでがんを発見するのは非常にむずかしい。とくに肺がんの場合、胸板というかなり分厚い部分を透過してきた画像を見て、小さながんを見つけるのは、熟練した医師でも至難の技です。それが、CTならば三次元の画像で、ピンポイントで小さながん病巣を見つけ出すことができるのです。
逆に言えば、レントゲンだけに頼った肺がん検診には、あらためて疑問を持ちましたが……。
肺への転移と聞いて、最初に私が浅井先生に言ったのは、気管支鏡だけは死んでもやりたくない、ということでした。医者だから知っているのですが、これは本当につらい。昔はレントゲンで肺にがんらしきものを発見した場合、次に気管支鏡を入れて、その場所を特定したものです。胃や大腸の内視鏡と違い、気管支鏡は、細かく枝分かれしている気管支に管を入れていき(これがつらい)、見つからないと、こんどは違う枝に入れていく。この作業をがんが見つかるまで続けるのです。
ところが浅井先生は、
「いまどき、そんなことはやりませんよ」
と笑っていました。がんであることはPET検査でチェックされました。がんがピカピカ光る画像を見て、放射線治療を担当してくださった伊藤芳紀先生は、「見事ながんですね」と説明してくれました。
「100パーセント消えます」
あとは治療法の選択ですが、今回は放射線による治療を選びました。というのも、前回の経験から、手術を選んだ場合、社会人として事前にやらなくてはならないことがたくさんあるからです。大学も休まなくてはなりませんし、周囲にもいらぬ心配をかけてしまいます。今の放射線治療は、驚くほど簡単で、その気になれば、誰にも気づかれずに治療をすませることができます。
伊藤先生も、放射線治療だけで、がん病巣は、
「100パーセント消えます」
と言う。医師の世界では、なかなか100パーセントという言葉は使いません。ならば、任せてみようと考えました。