防衛費に旧統一教会……こじれる自公
防衛費をめぐっては、連立を組む公明党内にも異変を生じさせている。支持母体の創価学会は反戦平和を掲げ、増税にも強いアレルギーを示す。学会員からの反発をダブルで食らう岸田の方針に、公明党代表の山口那津男も頭を抱える。山口は悩んだ末、「防衛費43兆円を認める代わりに、子育て支援に1000億円を要求せよ」との指示を公明党税調会長の西田実仁に下した。だが、西田は「冗談じゃない。そんなことが通るわけがない」と不平を漏らし、党内に亀裂が広がっている。
一方、公明党との折衝では自民党幹事長の茂木敏充が旧統一教会問題で相変わらずの勘違いぶりを発揮している。「創価学会副会長の佐藤浩とは良好な関係だから、公明党・創価学会は抑えられる」と、相互推薦問題でこじれた過去を棚に上げて周辺に吹聴していた茂木だが、そうは問屋が卸さなかった。被害者救済法で焦点となったのは、寄付を勧誘する際の「配慮義務」である。野党の要求は配慮義務でなく、マインドコントロールされた人に対する勧誘行為を確実に規制できるよう「禁止規定」として明記することだった。こうした規制強化の動きに、公明党は神経を尖らせていた。
だが茂木は当初、条項の順番など細かい部分を見直すだけで「この辺で公明党も野党も呑むだろう」と楽観していた。しかも茂木は「配慮義務の譲歩案を12月5日にペーパーで出す」と公言。これに対し、消費者庁をはじめ霞が関に「ペーパーで出したら正式な法案の修正になってしまう。何を考えているんだ!」と反発も広がった。こうした動きを受けて、公明党は茂木への不信感を募らせ、消費者庁の説明にも譲らず、結局、最後は官邸が乗り出して公明党の説得にあたった。
自公国連立構想という亡霊
旧統一教会問題が公明党、創価学会に与えたダメージは深刻だ。一部では、創価学会会長の原田稔の交代説も囁かれる。10月5日、原田、理事長の長谷川重夫、女性部長の永石貴美子らが出席し、東京・信濃町の学会総本部別館で全国方面長会議が行われた。原田は「広宣流布大誓堂の完成10周年」となる2023年を、大幅に信者を増やす転機と位置づけ、「聖教と人材の拡大を進める」と語った。唐突な大方針の発表だったこともあり、官邸内には「会長交代の予兆ではないか?」という憶測も一時、広がった。
そんな公明党をさらに刺激するかのように、12月上旬、「国民民主党を取り込んだ自公国連立政権が発足」との情報が永田町を駆け巡った。国民民主党代表の玉木雄一郎を入閣させることに、学会嫌いで知られる自民党副総裁の麻生太郎はもちろん、岸田も前向き、との尾ひれつきだ。
じつは自公国連立構想は安倍が健在の頃から幾度となく持ち上がってきた。だが安倍は「それはダメ」と推進論者の麻生ら自民党幹部に個別にクギを刺していた。重石の安倍が消えた途端、亡霊のように復活したわけだ。
もちろん公明党幹部らは激怒。玉木は「ガセネタ。もし私が閣僚になれるとしても、それはない」と断言し、嶋田も「連立は300%ない」と火消しに躍起になった。しかし、国民民主党幹事長の榛葉賀津也はこう口を滑らせた。「連立説はガセネタ。自民の反執行部派の連中が流した話」。これを受けて「逆説の逆説で、やはり本当だった」という受け止めが広がる。
実際、自民党内には旧統一教会問題を受けて、公明党と連立解消すべきとの意見も出始めている。学会の集票力にも陰りが出てきており、小選挙区での「基礎票」もかつてほどではない。実際、2022年の参院選岡山選挙区では自民の小野田紀美が公明から支援を拒否しても当選を果たした。厚労相の加藤勝信が参院選後、小野田と学会幹部とのパイプ役を買って出たものの、小野田も学会側もこれを拒否。ツイッターを通じて世論の支持を得る小野田のフォロワー数は20万人を超え、学会抜きでの集票力を誇示する。
今春の統一地方選の前哨戦とされた12月11日投開票の茨城県議選では、衆院茨城三区選出の葉梨康弘の法相辞任などで自民現職10人が相次ぎ落選。公明党は山口や幹事長の石井啓一が相次いで茨城県入りし、候補者4人全員が当選したものの、ふたを開けてみれば現職二人が前回よりも得票数を大幅に減らしていた。公明党の基礎票の低下は明らかで、自民党茨城県連会長の梶山弘志から報告を受けた岸田は「そうか。ご苦労様」と言葉少なだった。やはり岸田の本心は自公国連立構想に傾いている。
(文中敬称略)
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月刊「文藝春秋」の名物政治コラム「赤坂太郎」全文は、「文藝春秋」2023年2月号と、「文藝春秋 電子版」に掲載されている。
地獄を見た岸田の「粘り腰」