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身に覚えのない悪意が膨れあがっていく恐怖

 そこから“はみご”生活がはじまった。最初は体育の時間。幅跳びをすると、トンボの係の子に「キモイから(砂の跡を)消したくない」と言われた。授業中、「コイツの後ろ黒板見えないから誰か席変わって~?」と言われる。良く響くその声に、クラスの空気は凍った。グループ内で何かが起きている、周りが悟るのに時間はかからなかった。

 水面に広がる波紋のように、他の子たちの態度も徐々に変わっていった。学年でいちばん目立つそのグループから嫌われることが何を意味するか、私は悟っていった。

 取り巻きだった男子たちは、以前は私が通ると会釈をしていたが、一転して「きんも」と小さな声で呟き、顔を見合わせて小さく笑った。席は男女が2人ずつくっつける仕様だったが、隣の男子に席を離された。授業中のペアの時間も目を合わせてくれなくなった。 

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 決定的な暴力や、物を盗まれるといった直接的な被害はないものの、集団生活のなかで疎外される痛みは大きかった。教室という箱のなかで飛び交う視線や小さな笑い、そこに含まれる侮蔑や憐れみ、戸惑い。関わってはいけない子、と認定された確かな実感。自分の見えないところで、自分への身に覚えのない悪意が膨れあがっていく得体の知れない恐怖。

 薄いガラス一枚の心が、パリンパリンと、小気味よく割れる音がした。

 そこからいじめが悪化するのは早かった。

中学1年生の1学期で不登校に

 毎朝、寝ぐせなおしを髪に吹きかけるたび、そのにおいで教室での光景がフラッシュバックする。決まった時間に流れる朝の情報番組の音楽で心臓がきゅぅっとなり、ずっとお腹が痛かった。ご飯を食べる量は徐々に減り、ストレスで頭をかきむしるようになった。 

 頭皮がささくれ立ち、紺色の制服におちたフケは白くてよく目立つ。

「きったなぁ」

「お風呂入ってないのかな?」

 もはや小声でもなくなり、遠慮もなくなった悪口が後頭部に刺さる。週に1日だった欠席が2日になり、3日となって、やがて学校に足が向かなくなった。

 私は中学1年生の1学期で不登校になった。

ノンフィクションライターのヒオカさん ©釜谷洋史/文藝春