学校に行けない
私は山奥の家に引きこもった。
そうはいっても、ここにも居場所などなかった。学校に完全に行かなくなってまもなくして、父は目を剝いて私に言った。
「学校に行かんくても、好きにしたらいい。その代わり、部屋から出るな。テレビも見させん」
歩いても野山、田んぼ、川しかない過疎地とはいえ、顔見知りが通る。学校に行っているはずの私が昼間に歩いていたら不審に思われるだろう。かと言って街に出れば、同じ中学の子にあうことは避けられない。
本もテレビもネットもない。そんな部屋に1人こもり、毎日時間が経つのをじっと待った。唯一あるものといえば教科書類だが、好きだったはずの勉強もまるでやる気が起きなかった。
アルバイトや作業所を転々としていた父は17時頃には家に帰ってくる。父がいない間にテレビを観ていたが、たまに早く帰ってきて、なんどか鉢合わせしそうになった。車の音が聞こえると心臓がびくつき、全身がこわばった。急いでテレビを消し、息を潜めた。
学校に行かなくなってから父との会話もなくなり、顔も合わせなくなった。いつもいつも、責め立てられている感覚だった。
「学校に行かないお前に、生きる資格はない」
そう言われているようだった。自分でも、学校に行く責務を果たしていない自分に、生きる権利はない、そう思った。学校でも家でも、息を潜める他なかった。
フリースクールに通うことに
いっそ、消えてしまいたい。
この世界に、私の居場所はない。
この町にも、この家にも。
数カ月が過ぎたある日、目がうつろになり、笑わなくなった私を見かねた母が、市が運営する支援センターに連れ出してくれた。俗に言うフリースクールのようなところだ。
そこには学校に行けない中学生が集まっていた。廃校になった小学校の校舎の横に立つ小さな建物に、みんなが集まる大部屋と、そこにも入れない子どもたちが過ごす、薄暗い小部屋があった。
街行く人の笑い声が自分を嘲笑する声に聞こえるほど、私は人間不信になっていた。座っていれば邪魔と言われ、歩けばキモいと言われる。そこにいるだけで笑われた。わざと体に触れてきては「菌がうつる!」とはやし立てる遊びの標的にもなった。