みそラーメンは昭和の香り
アバウトさがまたいいが、そんな話を聞いていたら、なんだかみそラーメンが食べたくなってきた。寒い季節には、寒い場所には、やっぱりみそが恋しくなる。
「(開店した)あの時代は、札幌ラーメン、大流行りだよ。どさん子、どさん娘、ピリカとか」
ほどなくお目見えしたみそラーメンには、チャーシュー、メンマ、もやし、にんじん、ひき肉の炒め、ワカメ、カイワレがさりげなく並んでおり、ヴィジュアルからして昭和の時代を思い出させる。
「やっぱり、みそラーメンにはこれでしょ」と思わずにはいられない中太の縮れ麺は、スープにほどよく絡みつく。そのスープは濃厚でありながら、すっきりとした印象も。塩分過剰ないまどきのラーメンとは異なる、いかにもクラシックなスタイルのみそラーメンだ。
こういうものをいただくと、この地で長く営業してこられたことにも強く納得できる。時代の波に左右されず、やるべきことを誠実に続けてきたからこそ、多くの人に支持されているのだろう。その証拠に一定のペースでポツリポツリとお客さんが入ってくるし、若い人からお婆さんまで年齢層も幅広い。
ところが、横川さんはこうおっしゃるのだ。
「この年になるとね、めんどくさいんですよ。つくるのが。自分だけしかいないから。子どもは2人いるけど、やらないっていうし。疲れるから、こういう商売。それに、もう孫が大学生ですよ」
ここもまた、やはり店を継ぐ人はいないようだ。
「いない、いない。やらないもん。ここも借り店舗ですからね。もういい。私は、できないから。コロナがちょっと下火になったでしょ。それで、ちょっと忙しくなってるの、疲れちゃったの、私も」
「お店が暇なほうがいい」と思うわけ
ただしお聞きしてみると、疲れること以外にも理由がおありなようだ。
「3年前に女房を亡くしちゃったんですよ。71歳。美人薄命だといったもんだ。そうですよ。女房のおかげで繁盛したんですよ。途中で亡くすと、ダメですね、男は。情けない。だから、やめようと思ったんですよ、女房が亡くなったから。そしたら、みんながやめないでっていうんです。私もすぐ逝っちゃうんじゃないかなと思ったらしくて。後追いじゃないけど」
かくして「こんなに長くやるとは思いませんでした」といいながら、現在もアルバイトの女性と店を切り盛りしている。そんな話をお聞きすることになるとは思ってもいなかったが、だから余計に、来てみてよかったと感じたのも事実だ。