かつて中野駅を南口に出ると、すぐ左側に「中野住宅」という団地があった。数年前に取り壊され、現在は大規模な再開発プロジェクトが進んでいるが、1番線ホームからも見えたその団地と、そこから線路沿いに続く「千光前通り」は、ある意味で昭和の時代の中野を象徴するエリアのひとつであったように思う。

 事実、数分進むと右側に見えてくる「東京アスレティッククラブ(TAC)」は1970年代には最先端のスポーツ施設として知られていたし、さらに進むと見えてくる「なかのZERO」では、ロックから演歌までジャンルを問わないコンサートなど、さまざまなイヴェントが開催されてきた。

 小学生時代にはTACの水泳教室に通い、中学生のときには当時まだ「中野公会堂」と呼ばれていたなかのZEROまで友だちの姉貴の彼氏のバンド(ああ、ややこしい)のライヴを観に行ったりもしたので、私にとっても馴染みの深い通りだ。

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白いのれんがはためく「北国」

 だからこそ長らく気になっていたのは、TACの少し手前にある「北国」という名の店の存在である。ガラス張りの正面には赤いストライプがあしらわれており、日除けも赤。その間にかかった白いのれんには、これまた赤い文字でシンプルに「北国」の文字。

 つまり、決して目立たない外観ではないし、なんだか強く惹かれるものがある。しかし不思議なことに、ネットで検索してみてもほとんど情報が出てこないのだ。中野駅からこれだけ近いのに。

 そこで先日、「お昼の混雑時を避けて行ってみませんか?」と中野在住の友人を誘ったところ、「でも、あそこよく休憩してるから1時くらいのほうが無難じゃない?」とのこと。なるほどー、持つべきものは地元の友である。ということで、とある平日の午後1時すぎにお邪魔してみたのだった。

 店内は、左側の厨房を囲むようにL字型のカウンターがあるのみ。10人くらい座れそうだが、意外とシンプルだ。装飾物もほとんどないが、右の壁際にはベンチに見えなくもない細長く低い台があって、新聞や「週刊文春」が置いてある。

 まず印象的だったのは、厨房がとても清潔だったこと。調理台やコンロも磨き込まれており、白いレンガ柄の壁にも染みのようなものは見当たらない。包丁もきれいに研いであったので、それらを確認しただけで「ここはきっといい店だな」と確信を持つことができた。

まずはビールと餃子を注文!

 という堅い話はともかく、まずはビールと餃子を頼もう。メニューを確認してみれば、意外なことに飲み物はビールの中瓶のみ。