「こういう役を待ち望んでいた」
映画『つむぐもの』(2016年)で葛藤する介護福祉士を演じたときには、「こういう役をいただけるのを待ち望んでいた」と語った。じつは吉岡は、母親が少し身体が弱かったため、小さいころから家族みんなで母を支え、炊事や洗濯などはできる人がやればいいと教えられてきた。それだけに、この役が巡ってきたときには、《誰かを支え、心の中でその人のことを常に考えて、がんばらなきゃと自分に言い聞かせながら日々を生きていく……そういう気持ちを、演技としてそのまま出せる役がついに回ってきたと思いました》という(『厚生労働』2016年3月号)。彼女が演技するうえで「自分がどう全体の中の一部になっていけるか」をまず考えるのも、家族の教えが心に深く根差しているからではないか。
吉岡の演技は、ときに他人の人生にも影響を与えてきた。『健康で文化的な最低限度の生活』では、放送後何年も経ってから、偶然会った人にあのドラマを見てケースワーカーになったと言われ、自分が想像する以上に、人に届いているんだと実感したという(『週刊SPA!』2022年5月3・10日号)。
「大嫌いだけど観ていて楽しい」という声も
『カルテット』で悪女を演じたときも、《「大嫌いだけど観ていて楽しい」とか、「悩んでいることが馬鹿らしくなって背中を押されました」と、視聴者の方からコメントをいただきました》という(『婦人公論』2018年3月13日号)。たとえ共感を抱きにくい役でも、見ている人の心を捕らえずにいられないのも、彼女が自分本位にならず、作品の一部になろうと意識して演技しているからなのだろう。
舞台初主演となった昨年の『スルメが丘は花の匂い』(作・演出はお笑いコンビ・かもめんたるの岩崎う大)では、吉岡の実年齢に近い主人公がふいに童話の世界に迷い込み、住人たちとの価値観の違いなどに戸惑いながらも、やがて人生について考えるようになる。設定は現実離れしているが、主人公は年相応のどこにでもいそうな女性で、吉岡には珍しい役どころであった。それでも見事に演じきっていて、引き出しの多さを感じた。このほかにも開けていない引き出しはまだたくさんありそうだ。30代に入った彼女が、さらに新たな顔を見せてくれることを期待したい。