東洋一の繁華街、新宿・歌舞伎町。その華やかな世界の裏で、貧困にあえぐ女性に焦点を当てたルポルタージュ『歌舞伎町と貧困女子』(宝島社)が話題を集めている。

「トー横キッズ」「地下アイドル」「ホス狂い」「街娼」「風俗嬢」「外国人売春婦」「ヤクザの妻」――。

 コロナ禍の危機的状況から復活した街の主役は、中年男性からZ世代の若者にとって代わられ、売春が日常風景となっていた。そして“欲望の街”に引き寄せられる女たちは、「貢ぐ」ために貧困化している。 

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 貧困女子たちの生態を追い続けてきたノンフィクションライターの中村淳彦氏が明らかにする、歌舞伎町の裏側と貧困女子たちのリアルとは。『歌舞伎町と貧困女子』から一部を抜粋し、転載する(転載にあたり一部編集しています。年齢・肩書等は取材当時のまま)。

(全4回の3回目)

※写真はイメージです ©AFLO

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事故物件に住む女性の正体

 2022年10月、ウィークデーの20時、新宿職安通りにある抜弁天にいる。

 抜弁天とは歌舞伎町徒歩圏にある職安通りと靖国通りが交わる交差点の名称だ。

 どうして抜弁天にいるかというと、この辺りは歌舞伎町に生きるキャバ嬢や風俗嬢、ホストやホス狂いたちの居住地となっているからだ。ホス狂いの宮下あさ美(仮名、25歳)は抜弁天のすぐそばにある家賃12万円の賃貸マンションに暮らす。「ホストクラブに行く前なら、別に取材を受けてもいい」と連絡をもらい、ここで待っている。もしかしてと思ったが、事故物件だらけで有名な賃貸マンションから現れた。

※写真はイメージです ©AFLO

 この賃貸マンションは、ホストやキャバ嬢、風俗嬢、AV女優、それに歌舞伎町に通うホス狂いが主な住人であり、目の前を通る職安通りは歌舞伎町に向かう、彼ら、彼女らの通勤路となっている。この賃貸マンションが一部のマニアの間で有名になったのは、某事故物件サイトで炎マークだらけになったことが理由だ。飛び降り、発狂、刺殺、不審死が相次ぎ、可視化されている事件や事故はまだ一部だけともいわれている。

 マンションのエントランスから、全身小柄で黒ずくめ、マスク姿の宮下あさ美が出てきた。筆者に近づいて来て軽く会釈する。