例えば、「戦争はすべきではない」という議論に「なぜ戦争すべきではないのか?」と問うてみる。その答えが「多くの人が自らの意思に反して死ぬから」であれば、「では、多くの人が死ぬことがなぜいけないのか?」と問う。これを繰り返し、問いを深めていく。やがて問いは哲学的となり、その答えは価値観や信念を反映するものとなる。議論の前提が明らかになるのだ。批判的思考についてのより詳しい説明は以下のコラムをご参照いただきたい。
国際バカロレア留学の成功の秘訣(と僕が思うもの)ー2(クリティカルシンキング理論編) https://note.com/motokiwatabe/n/n4ae0970a7027
最近の海外での教育は、4Ⅽを謳っていなくとも、それに準ずる目標を掲げる学校が多い。例えば国際バカロレア(IB)では、理想の学習者像として
(1)探究する人、(2)知識のある人、(3)考える人、(4)コミュニケーションができる人、(5)信念をもつ人、(6)心を開く人、(7)思いやりのある人、(8)挑戦する人、(9)バランスのとれた人、(10)振り返りのできる人、を挙げている。
これらが4つのⅭをほぼカバーしていることはおわかりいただけるだろう。つまり世界の教育の多くは、この方向にシフトしている。現在では、既存の考えや知識、価値観やキャリアパスなどが、急速に変わり、5年前にコロナを予測できなかったように、不確実性が高くなっているのが理由だ。このように不確実性の高い状況は「VUCA」と呼ばれ、近年のキーワードとなっている。4ⅭやIB学習者像は、そんな正解のわからない、予測のしにくい状況を乗り越えるための能力として認識されている。
座学よりも実践で鍛えるべき能力
海外では具体的にはどのような教育をしているのか。重要なことは、4つのⅭは座学よりも実践で鍛えるべき能力だという点だ。したがって、知識を効果的に他人に伝える、マウントとりではなく発展的議論をする、グループで成果を出すような課題に取り組ませるようなことを小学生のレベルから行っている。具体例については下記のコラムを参照いただきたい。
マレーシアの小1の宿題がグローバル過ぎてワロタw「負け組組織の大人」にならないための練習問題 https://diamond.jp/articles/-/59159
国際バカロレア教育が日本に必要な本当の理由 https://note.com/motokiwatabe/n/n889d62a761f7
一方日本では、先生が4Ⅽの重要さをわかっていても、それを効果的に教えられない。その元凶は、知識量を偏重した大学受験システムであり、大学ブランドによる仕分けに基づいた企業の新卒一括採用システムにある。簡単に言えば、受験に役に立つような教え方しかしないのだ。大学においても、ほぼ大学名で学生の就職が決まってしまうため、4Ⅽを鍛える大学教育システムが育たない。結果として、4Ⅽを鍛えるノウハウを持つ教育者の数が圧倒的に少ないのも問題だ。だからといって、子供に海外留学をさせるのは簡単ではない。仕事や経済的理由でそれができない親が大半だろう。