子供に「意思決定」をさせる体験が大事
では、今の日本の親たちはどうすればいいのだろうか。ここでは親子で4Ⅽに取り組む例を紹介したい。
基本的な考え方は、(1)不確実な状況で、(2)いろいろな意思決定をしなくてはならない、(3)その意思決定はグループでのコミュニケーションが必要、という環境を作ることだ。
最も手軽にそれを作れるのは、野外でのキャンプだ。どこに泊まるか、どこにテントを張るか、食事はどうするか、天候の変化にどう対応するか、といった自然環境の不確実性に対して、様々な意思決定が要求される。そこでは、どんな意思決定の優先順位が高いか、というレベルから考えなくてはならないし、そのための議論もしなくてはならない。
それを親子で実践する。その時に重要なのは、決定のイニシアティブを子供に取らせることだ。子供の考えが明らかに間違っていても、それを頭から否定するのではなく、あくまで自分の代替案を提案するに留める。大きなダメージが残らないようなら失敗させても良い。その代わり、失敗の分析と振り返りを(決して叱らずに)させる。子供はその体験を通して、意思決定の大切さや面白さを体得するはずだ。そしてより良い決定をするには、批判的思考とコミュニケーションが必要とし、実現するにはコラボレーションが必須で、新しいアイディアを創造することもできると理解するだろう。
大人にとっても貴重なチャンス
このような経験をできるだけたくさん子供にさせることが重要だ。上記の3つの条件を満たせばなんでもよい。例えば、冷蔵庫にある材料でどれだけ美味しい夕食が作れるか、子供と一緒に考えるなど、工夫次第でいろいろとできるはずだ。
実はこれは大人である私たちが4Ⅽを身に着ける貴重なチャンスでもある。日本的教育システムにどっぷりと浸かってきた私たちが、その呪縛から解き放たれるための訓練として有効だ。私たち自身の4Cが鍛えられるとき、子供たちの4Ⅽもまた飛躍的に伸びることだろう。
プロフィール
渡部幹(わたべ・もとき)
1968年、北海道生まれ。北海道大学卒業。UCLA大学院社会学研究科博士課程修了、Ph.D.(社会学)。京都大学助教、早稲田大学准教授を経て、2013年よりマレーシアに移住。現在サンウェイ大学サンウェイビジネススクール教授、同スクール経営学部学部長。専門は、社会心理学、組織行動学、社会神経科学。2008年に出版した『不機嫌な職場 なぜ社員同士で協力できないのか』(講談社現代新書)は29万部のベストセラーとなっている。
◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2023年の論点100』に掲載されています。