東京都立大学で経営学(企業家研究)を担当する准教授であり、自身の婚活体験をを経営学の視点で分析した『婚活戦略:商品化される男女と市場の力学』(中央経済社)の著者である高橋勅徳さん。
2023年1月10日に上梓した『大学教授がマッチングアプリに挑戦してみたら、経営学から経済学、マーケティングまで学べた件について。』では、マッチングアプリを通じた婚活から学べる経営学や経済学などの考え方について、実体験を元にした私小説風にまとめている。ここでは、その本から一部抜粋して紹介する。
大学教授のYamaguchiは、マッチングアプリを通じてTさんという女性と出会い、何度かデートを繰り返すようになった。一方で、「何かおかしい」メッセージを送ってくる他の女性と会ってみた結果、パパ活目当てだったことにショックを受けるのであった……。(全2回の2回目/前編を読む)
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女性の市場と男性の事情(2022年11月30日)
翌日、酷い二日酔いで目を覚ました。真田(編注:Yamaguchiの友人)に勧められるままに、高価なウィスキーをグラスで何杯も空けた気がする。
こんなに飲んだのは、いつ以来なのか思い出せない。この週末は結局、アプリ婚活を開始して初めて、一切マッチングアプリを拓かずに土日を過ごした。二日酔いで痛む頭も真田から聞いた内容を反芻していると、妙にスッキリしはじめてきた。
昨今のネット上では、婚活市場という言葉が流通している。実はこれはメタファーではなく、婚活とはマッチングアプリによって形成される「市場取引」なのだ。
大学生がある時期に求人サイトに登録して就活市場に参入するように、男女はマッチングアプリをインストールして会員登録することで、婚活市場に参入する。就活市場では労働力と給与が取引される場であるとすれば、婚活市場ではマッチングアプリで可視化された男女それぞれの価値が交換=結婚という契約をする場であると言えるだろうか。
じゃあ、婚活市場では何と何が交換されているのか?
婚活概念の提唱者である山田昌弘先生が指摘しているように、婚活市場とは女性の若さ・美貌と、男性の財力が交換(=交際)される場だとしよう。
例えば結婚相談所のカウンセラーの話では、男女間の年齢差は100万円/ 1歳差で換算するという。つまり、5歳年下の女性と結婚する場合、男性に求められる年収は500万円、10歳差なら1000万円ということだ。経済学的に考えると、このような形で若さ・美貌と財力の取引相場がありそうだ。
ところが、先週に出会ったパパ活女性との出会いの経験は、婚活市場では女性がむしろ、レバレッジを効かせて相場以上の利潤を得ているようにも思える。つまり、マッチングアプリの利用を通じて、自分の市場価値を認識し、釣り上げていく戦略が「パパ活」なのではないだろうか。
「パパ活」が極端な話だとしても、婚活とは自由恋愛による結婚が行き着いた先に、新自由主義に到達した恋愛と結婚が、今のスタンダードなのかもしれない。