東京都立大学で経営学(企業家研究)を担当する准教授であり、自身の婚活体験をを経営学の視点で分析した『婚活戦略:商品化される男女と市場の力学』(中央経済社)の著者である高橋勅徳さん。
2023年1月10日に上梓した『大学教授がマッチングアプリに挑戦してみたら、経営学から経済学、マーケティングまで学べた件について。』(クロスメディア・パブリッシング)では、マッチングアプリを通じた婚活で学べる経営学や経済学などの学問の奥深さを、実体験を元にした私小説風にまとめている。ここでは、その本から一部抜粋して紹介。
マッチングアプリを使って婚活したい35歳の大学教授・Yamaguchiは、まずは女性のニーズに寄せる形でアプリのプロフィールを文を作り、つづいて自分が出会いたい理想の女性像にリーチするために、マーケティングの「市場をニーズに合わせて細分化する」という考え方に注目する。次に何をするべきか――。(全2回の1回目/後編を読む)
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婚活の青い海、そして野望(2022年5月12日)
市場の細分化という意味で、注目せねばならない顧客分類は「リードユーザー論」だ。
キャズムモデル(編注:製品がどのような顧客層を通って市場に浸透していくかを論じたモデルのこと。図1を参照)で言えば、イノベーターやアーリーアダプターに該当するのがリードユーザーであるが、リードユーザーに注目することは、企業に通常とは異なるマーケティング・マネジメントへの道を切り開くことになる。
先日、家族社会学や結婚相談所の調査から「女性にとっての理想の男性像」を見出してプロフィールページを作成したが、それは婚活市場全体の女性のニーズを平均化したものだ。平均的であるということは、既存市場で最も求められているボリュームゾーンであると考えられる。
他方でリードユーザーを、その平均から「外れた」極端なニーズを有するユーザーと見ると、新しい発見があるかもしれない。婚活市場であれば、変わった趣味の持ち主であるとか、極端に年上・年下を求めているとか、特定の職業従事者を配偶者に求めているのが、リードユーザーに当てはまるだろう。
経済合理性という面で考えると、もっとも顧客の多い平均的なユーザーを狙っていくべきだろう(実際、私もそう考えてプロフィールページを作成していた)。
しかし、あえて顧客層が少ない(少なく見える)リードユーザーをターゲットとしていくことは、市場の細分化という視点から考えると優位性があるのではないだろうか?
そんな事を考えて、以下のような図を書いてみた(図表4)。
アプリ婚活でマッチングの成功確率を上げていくためには、通常は最も顧客数の多い平均的な女性を想定し、それに合わせたプロフィール作成とマッチング申込みをするのが合理的に思える。
しかし、多くの男性が「平均的な女性像=中庸なニーズを持つ女性」をターゲットにしてアプリ婚活を実行した場合、リードユーザー=極端なニーズを持つ女性は「満たされていない」状況にあるといえる。