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「極端なニーズを持つ女性」に絞るのがポイント? 35歳大学教授がマーケティングの論理を使ってアプリ婚活してみた

『大学教授がマッチングアプリに挑戦してみたら、経営学から経済学、マーケティングまで学べた件について。』より#1

2023/01/26

 マーケティング論の分野では常識になっているが、広告は商品の認知度を向上させるが、実際の購買行動とは相関がないとされている。つまり、数千万から数億のお金を費やしてテレビ広告を流しても、知名度は上昇するが売上につながるとは限らない、ということである。

 実際、マーケティング論でも従来のマス・マーケティングからOne to One マーケティングやマイクロマーケティングへの転換という形で、この問題に対応しようとしている。

 例えば、先日の調査のように「婚活女性全体の傾向」からマスの消費者像を想定したマーケティングを目指すのではなく、マイクロマーケティングやOne to One マーケティングでは、究極的には「消費者一人ひとり」の属性に合わせたマーケティングを展開していく。

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 例えば、ゼミでAmazon のウェブページを開いた場合、ゼミ生一人ひとりの過去の閲覧履歴や購入履歴によって、表示される本や商品の内容は異なる。

 私の場合でも同様で、以前は社会科学系の学術書しか表示されなかったのだが、婚活を始めてからの私のAmazon のページはファッションやダイビング、フィットネス関係の商品が表示されるようになったし、頻繁にそれらの商品の購入を促すDMが届くようになった。これは、One to One マーケティングにおけるレコメンデーションやリターゲティング広告と言われる手法である。

 これをアプリ婚活で応用できないだろうか?

メッキが剥がれていく音がする(2022年5月25日)

 確かに、One to One マーケティングやマイクロマーケティングの手法を用いれば、マッチング率が向上するだろう。

 しかし、アプリ婚活でこれらのマーケティング手法を実施するには問題点がいくつかあることに、簡単に気づいた。

 まず、マッチングアプリを利用している女性一人ひとりの属性に基づくニーズを、私が知る方法が事実上ない点である。そもそも、マーケティングの手法を導入してからPV数は上昇を続けているが、どのような女性が私に関心を持っているのかは、女性側からマッチングの申し込みが来たときにしか分からない仕様になっていた(少なくとも、利用しているアプリでは)。

 どのようなプロフィールの女性がアクセスしたのかは、年齢や学歴といったざっくりとした指標すら、ユーザー側からは分からないのだ。これでは、マイクロマーケティングをユーザー側からは仕掛けることができない(個人情報の保護という観点からは、当然かもしれないが)。

©AFLO

 週に何度かアプリ運営会社からオススメの女性=レコメンデーション・リターゲティング広告が届くが、その内容を見る限り、「私の検索履歴に基づいた選別」でしかない。

 マッチングの向上を目指すのであれば、「私か、私に似た属性の男性を検索・閲覧し、申込みをした経験のある女性」のレコメンデーション・リターゲティングするほうが、絶対に効果的だと思うんですが?

 他方で、One to One マーケティングやマイクロマーケティングの考え方は、私自身の持つ大きな問題点を浮き彫りにしてくれる。究極的には「顧客一人ひとり」の属性やニーズに合わせてカスタマイズしたこれらのマーケティング方法は、消費者に「特別な体験」を提供するがゆえに実際の購買行動につながると指摘されている。

 例えば、ある自動車に興味を持つユーザーに対して、自動車メーカー側が「1 ヶ月の試乗体験モニター」のオファーを出す。

 企業から「モニター」として選ばれた優越感と、モニターとして他者にSNS 上でその車の試乗体験を定期的に報告するという経験は、情報を発信する消費者にもその情報を受け取る消費者にも「実際にこのメーカーの車を買おう(車に乗ってみたい)」という意思決定を促していくことになる。マイクロなマーケティングが実際の購買行動につながるのは、その製品やサービスから離れられない「特別な体験」を提供しているからなのだ。

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