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恋愛経験値ほぼナシの35歳大学教授がマッチングアプリに挑戦して気づいた、女性が「イケメンで高収入の男性」を求める“当然の理由”

『大学教授がマッチングアプリに挑戦してみたら、経営学から経済学、マーケティングまで学べた件について。』より#2

2023/01/26

「うーん、もうその人で決めていいんじゃないか? もう週1、2回ペースで会って飯食ってるんだろ。手を出すどころか、交際にすら至ってないことに、むしろビックリだよ」

 久しぶりに近況報告を聞きたいという真田は、感慨深げにそう言った。どうやら、Tさんと交際に至っていないことが、彼にとっては不思議に感じるらしい。

「あと、アプリを利用していることを後ろめたいと感じているということは、お前は少なからず彼女に好意を抱いているってことだよ。さっさと告白して、交際を申込めよ」

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「そうかな」

「お前まさか、振られたらどうしようとか、中学生みたいな青臭いこと考えているんじゃないだろうな?」

「いや、なんて伝えればいいかな……って」

 真田は笑った。

 私はこれまで、受験勉強と研究に勤しみ、仕事として教育に携わってきた。それに関わること以外の全てを、時間を奪う雑事として切り捨ててきたのだ。

 自分自身を薄っぺらいというのはそのままの意味で、私の武器は学歴しかない。ここまで、自分が学んできた理論で誤魔化してきたが、私は婚活市場で戦う資源が圧倒的に足りないのだ。

 家族社会学には「恋愛資本」という言葉があるらしい。

 既婚者と未婚者の過去の交際歴の調査では、既婚者の過去の交際経験人数は3 ~ 5人であり、未婚者はその数字を下回るそうだ。交際経験人数が多いということは、異性と出会い、交流する機会そのものが多いということである。

 そして機会が多いがゆえに、異性と交際するためのコミュニケーションスキルが磨かれるだけでなく、友人関係を含めたネットワークを人生経験の中で数多く獲得できる。このスキルとネットワークの蓄積が恋愛資本であり、その資本蓄積の差が恋愛や結婚の格差につながるのだという。

 お見合い結婚が主流であった1970~ 1980年代は、この恋愛格差を家族や職場がカバーし、異性との出会う場が用意され、結婚へのレールを敷いてくれた。

 しかし、自由恋愛による結婚が前提になったことで、自分で恋人を探し、コミュニケーションを重ねて恋人になり、結婚にまでたどり着かねばならない社会になった。

 そして、異性との出会いそのものを提供するマッチングアプリが登場して、私達は「いつでも、どこでも、会いたい人に会える機会」を提供された。

 しかし、ここで提供されているのは「機会」だけで、その先は恋愛関係を構築できるかどうかに懸かっている。

 つまり、マッチングアプリは恋愛資本のうち、機会獲得の差はカバーしてくれるが、コミュニケーション能力まではフォローしてくれないのだ。

 その状態で、恋愛資本に乏しい私が婚活市場に参入したらどうなるか。真田のような恋愛強者と、私のような恋愛弱者の差は、残酷なほどに明確化してしまう。そんな私が、ここまでTさんと続いていることそのものが、奇跡的なのだろう。

恋愛経験値ほぼナシの35歳大学教授がマッチングアプリに挑戦して気づいた、女性が「イケメンで高収入の男性」を求める“当然の理由”

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