女性役員「お住まいはどちらですか」
筆者「流山です」
「ああ、この間、テレビでやってましたね。子供が増えてるって。どうしてですか?」
筆者が斯く斯く然々と送迎保育ステーションの説明を始めると女性は慌ててバッグからメモ帳を取り出した。
「流山の送迎保育ステーションは使い勝手がいい」とクチコミで評判に
「え、駅前で子供を預かってくれるんですか? 帰りも。もう一度お願いします。朝は7時からで、夜は何時まで?」
「原則6時で、8時まで延長できるそうです」
「へえ、8時まで。明日、電話してみます」
彼女は業界では名の通ったコンサルタントで、大企業の人事部を相手にバリバリ仕事をしている。都内に住んでいて、就学前の2人の子供を抱えており、ようやく保育所を見つけたが1人ずつしか空きがなく、兄弟で別々の保育所になった。朝、2つの保育所を回って駅にたどり着くのに小1時間かかる。帰りも同じ。多忙を極める彼女にとって2時間のロスはあまりに痛い。
実はこの送迎保育ステーションを始めたのは流山市が最初ではない。しかし一足先に始めた横浜市では、幹線道路の渋滞がひどく園児を定時に送り届けることができなかった。また他の自治体では「送迎の対象は公立の保育所だけ」というところが多く、利用者から「使い勝手が悪い」と批判が集まっている。
流山市長の井崎義治は最初から私立の保育所にも門戸を開き、利便性を高めた。すると前記のコンサルタントの女性のように、送り迎えに膨大な時間を割いていた子育て世代の間で「流山の送迎保育ステーションは使い勝手がいいらしい」とクチコミで評判が広がった。
6年連続人口増加率トップ
「保育園落ちた日本死ね!!!」の匿名ブログが全国の注目を集めたのが2016年。日本の共働き子育て世帯の多くが「保育園難民」と化していた。千葉県の北の端に位置する流山市は、その10年前から子育て世代の支援に着々と手を打っていた。
2010年、市内に17ヶ所しかなかった保育園は12年後の2022年、100ヶ所に増えた。2003年に流山市長になった井崎が「共働き子育て世代の基本的インフラとして保育園を整備せよ」と号令をかけたからだ。2021年に「待機児童ゼロ」を達成した。
ここまで急激に保育園を増やすと、当然、問題になるのが保育士の確保だ。流山市は十分な人数の保育士を揃えるため、保育士を厚遇することにした。