流山市が変わったきっかけ
まず「処遇改善」として市から毎月4万3000円の補助が出る。流山市で新たに保育士になると「就労奨励金」として最大30万円が受け取れた(この制度は2022年度で終了)。さらに最大6万7000円の家賃補助(国が2分の1、市と事業者が4分の1を負担)も出る。特別なケアが必要になる要配慮児童を預かる園は保育士の数を増やす必要があるため、市が追加の人件費を負担する。こうした児童を受け入れる園を含め障がいの診断を受けた子供を対象に配置される加配保育士を置いている園は60ヶ所を超えている。
こうして「保育の楽園」になった流山市には保育園難民となった首都圏の子育て世代が一斉に押し寄せた。その結果が現れたのは2016年。総務省が発表した人口動態調査で、流山市の人口増加率(2.49%増)が全国の市の中でトップに躍り出たのだ。
流山市はその後も、毎年、全国の市の中で「人口増加率首位」を維持し続け、2021年まで6年連続の首位を達成した。
千葉県のマスコットは県の地図を犬に見立てた「チーバくん」。県北西部、茨城県や埼玉県に近い流山市は、野田市とともに、チーバくんの鼻の先を構成している。道路や鉄道の開発が遅れ、かつて「千葉のチベット」と呼ばれた地域である。
「千葉のチベット」の中でもとりわけ辺鄙と言われた流山市。その流山市が変わるきっかけになったのは2005年のつくばエクスプレス(TX)開業だ。市内に「南流山」「流山セントラルパーク」「流山おおたかの森」の3駅ができ、駅周辺で一気に土地区画整理が進んだ。TXと東武アーバンパークライン(東武野田線)がクロスする流山おおたかの森の駅前には巨大ショッピングセンターや大型のマンションが林立し、今や「千葉のニコタマ(ヤングセレブの街として有名な世田谷区二子玉川の略称)」と呼ばれている。
TX開業時に約15万人だった流山市の人口は、2021年に20万人を超え、22年には20万6000人。この10年で3万8000人増えた。
人口増は不動産の資産価値も大きく押し上げ、更地の1坪(約3・3平方メートル)単価が「流山おおたかの森駅」から10分程度で約110万円。3LDKの中古マンション(築10年程度)については同駅から5分程度で約4800万円と、ともに5年前の1.5倍に上昇した。地元不動産会社の社長の岡村徳久は「TX沿線には都内の駅もあるが、治安などを考えて、流山が選ばれる」と解説する。
経済ジャーナリストの視点
筆者が流山市に移り住んだのは1993年。TXはまだ開通しておらず、常磐線柏駅で乗り換える東武アーバンパークラインの江戸川台駅から徒歩10分の場所に小さな一戸建てを立てた。なぜここを選んだかはおいおい説明するが、通勤時間が1時間強に収まる都心から30キロメートル圏内で最もコストパフォーマンスの良い街を探したら、ここに行き当った。