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「当時は舟津も学生特有の難しさがあり、私も監督として経験が足りていませんでした。舟津との関係は、むしろ今のほうがいいかもしれません。競技会で顔を合わせればいろいろ話をしますし。学生と監督の関係から、今は大人同士の関係性に移行したという感じでしょうか」

 監督と学生の間には、それぞれの学年にストーリーがある。そうした物語が層、レイヤーを成しながら土台を作っていく。そして藤原監督がリクルートした学生が4学年揃ったのが2020年だった。

「それまでの学年には申し訳ないですが、高校時代から知っている選手たちとは、やはり目標の共有がスムーズだったりするんですよ。その意味でも土壌を耕すには4~5年の時間が必要だったと実感します」

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中央大学の陸上部が入る寮

 ところが、2020年はコロナ禍が中大の邪魔をする。

「上向いている手ごたえはあったのですが、なかなかブレイクしきれない状態が続いていたので、2020年は“足りない部分”を補うエッセンスを注入していこうと考えていた年でした。もちろん他の大学も影響はあったでしょうが、うちにとっても歯がゆい時間でした。それでも、吉居大和が入学してきたことで部のレベルが上がったのは間違いありません」

高校生だった吉居大和が練習でトップになる異例の事態

 くすぶっている集団を破壊し、一気にブレイクスルーさせた学生。それが吉居だった。

吉居大和。中央大学の選手が2区の区間賞を取るのは、2003年の藤原監督以来だった ©JMPA

 2022年の箱根駅伝では1区で独走の区間新、そして今年は田澤廉(駒大)、近藤幸太郎(青学大)とのデッドヒートを制して2区で区間賞を獲得した吉居。実は入学前に中大の記録会に出場した際、先輩たちを差し置いて部内でトップになったことがある。

「ポイント練習(強度の強い練習)でも吉居が先着する状態で、上級生が『このままでは自分たちが出られなくなる』という危機感を抱いたんです。そして吉居に引っ張られることで、それまで自分たちで限界だと思っていたペースがまったく限界ではなかったことに気づきました。私も学生たちに殻を破って欲しい、限界を突破して欲しいと発破をかけていたんですが、年下の吉居の存在が部員たちの意識を変えてくれたんです」

 復活のために必要なインフラを整備したうえで、最後に必要なピースが圧倒的な能力を持つ吉居だったということだろう。