2021年の箱根駅伝は吉居の体調が万全ではなかったこともあり総合で12位に終わってしまったが、2022年は2年になった吉居が1区で独走して区間新記録をマーク、総合で6位に入り、2012年以来10年ぶりにシード権を獲得した。
そして吉居の思い切りのいいレースが、高校生のハートをつかんだ。このレースを見て、「吉居さんと一緒に走ってみたい」と感じた有力な高校生たちが中大を目指すようになったのだ。私の見たところでは、2023年4月入学世代のリクルーティング・ランキングでは中大がナンバーワンだ。吉居の存在は部だけでなく、未来の中央を変えようとしている。
そして今年。中大は主役の一角を担った。吉居が2区でトップに立つと4区まで首位を走り、優勝した駒大の背中を追っての2位。第100回大会での総合優勝に向けて、準備は整った。
「積み重ねてきたものの成果が出たレースでした。私が卒業してからずっと下降曲線を描き、正直、私が監督を引き受けた時点では焼け野原の状態でした。そこから土を耕し、種を蒔いて、水やりを続けたので、簡単に揺らぐようなことはもうないと思います」
箱根駅伝は大学の“総力戦”
他の大学に比べ、中央大学は指導体制も充実している。監督、ふたりのコーチに加え、今季からはプレーイングコーチとしてOBの大石港与(パリ・オリンピックのマラソン選考レースであるMGCの出場権を獲得している)が加わった。
「ウチは40人ほどの小規模な部ですが、40人に対して私を含めて4人のコーチがいるのは珍しいと思います。さらにはトレーナーにも指導を仰いでますし、指導の細分化、分業が可能になっているのが中央の強みだと思います」
現在の箱根駅伝を見ると、大学が駅伝を「フラッグシップ・スポーツ」と捉え、強化に注力している大学が上位に入っている。
さらには、55年ぶりに箱根駅伝に復活した立教大学のように、大学のブランドイメージがリクルーティングにおいては大きな武器になっている。今年、「MARCH」が箱根駅伝にそろい踏みしたのは決して偶然ではない。
残る階段はあとひとつ。藤原監督は来年の大会に向けて、意識していることがある。
「今年は毎日、必ず『優勝』という言葉を使って行こうと思っているんです。去年までは、基本的に使わない、いや、使えない言葉だった気がします。学生たちは、練習でも前を走っている選手の背中が“駒澤”だと思えるかどうか、そうした意識を持つことで結果が変わってくると思います」