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 17歳の少女だろうと、1人っきりになろうとも食ってはいかないといけない。必死に仕事を探すうち、また喫茶店を見つけた。なにげなく応募してこの店に採用されたことが、彼女のその後の行く道を決定付けた。

北の大地のヒモ男登場

 店のマスター田村(仮名) は、歳の頃26か27。店でもなぜかロクに働かない。それでも潰れるわけでもなかった。働き始めたマリアは、少しして、田村と男女の関係になってしまう。「まあ口が上手い男だったわね」と笑うマリア。店の近くに借りていた彼女のアパートに、気づけばこの男は転がり込んでいた。ほどなく自分のほかにも何人も女がいることに気づいたが、少女は黙っていた。

「それで言ってきたのよ。『俺の友達が夜の店やるからちょっと手伝ってくれ』って」

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 田村が指定した店は札幌のスナックだった。喫茶店で働いていた少女は18になり、あれよという間にホステスへ転身した。冬、札幌の雪が、か細い10代の女性の肩にうっすらと積もっていく。マリアは雪を踏んで毎夜店へ通い、喉が嗄れるほど客と歌い、飲み、看板娘となっていった。売り上げの多くは、田村が巻き上げていったのだが……。

 盛り場で飲み歌う夜を過ごすうち、「なんだか身体がへん」。調べると、妊娠していた。腹の子の父である田村に言うと、意外にも素直な一言が返ってきた。「仕事をやめて産め」。

 こうして初めて自分の両親のもとへ田村と出向き、全てを告げた。やっと娘は落ち着いてくれる、父は喜んだが、母は即座に、産むのはやめなさい、とはっきりマリアに告げた。「ちゃんと悪いヤツ(男)だってわかってたのね」、マリアは笑う。それでもどうしても産みたかった。彼女は我を通す。 ここで初めて、田村と籍を入れたのだった。

結婚と1人っきりの出産

 マリアを己れの所有物とみなしたのだろう、結婚するや田村は急変、彼女に暴力を振るいだした。気に入らないことがあると身重の少女を張り倒す。マリアは、あざだらけの少女だった。なんという男だろう。なぜ彼女はこんな男と一緒にいるの?と読者も思うだろうか。家出や出産など折々で我を通すこともあったくらいなんだから、逃げればよかったのに、と。それは時代のこと、地域性のことも忘れた他人だから言えることだ。

 ……と俯瞰して見てみようと思ったが、無理。田村は弁護不能の男だった。つわりもひどくなり、 全く働けなくなった妻を残し、今度は家に帰らなくなった。田村の父母のほうが心配し、入院費を出してくれたり応援してくれたが、男は姿を現さず、産み月になっても生まれる気配もない。苦しさに耐えかねたマリアがある日病院に行くと、促進剤を打たれ、すぐさま出産となった。昭和59年、マリアはたった1人で息子を産む。