イメージと現実のギャップこそリアリティ
伊藤 実は高野さんの本を読んで一番感銘を受けるのは、探検をしていくと、たどり着いた場所がいつも思っていたのと違いますよね。怪獣ムベンベを探しに行くぞって行ったらいないとか、麻薬取りに行くぞって行ったらただの労働作業だったりとか。プロセスで思い描いていた絵と、実際にそれが手に入った時にそうでもないなというギャップが素晴らしいなと思っていて。
高野 ムベンベを探しにいって、コンゴのジャングルの中の湖に行ったら、湖が水深2mしかなかったのは、衝撃でしたね。こんなに浅いじゃんって(笑)。でも僕はイメージと現実のギャップこそリアリティだと思っています。そこに本質がある。
伊藤 「あっそういうことか」と(笑)。
高野 そう、まさに腑に落ちた瞬間。「あっ、そういうことか」って腹落ちする感覚は自分の取材で一番重視しているところですね。何か探しに行って見つからなくても納得できれば、自分にとって、もう帰っていいってことだから。
伊藤 高野さんの探検の到達点が、「できる」をめぐる感覚と深く重なっていて、非常に面白かったです。今日はありがとうございました。
高野 こちらこそありがとうございました。
(青山ブックセンターにて)
▽プロフィール
伊藤亜紗(いとう・あさ)
1979年生まれ。美学者。東京工業大学科学技術創成研究院未来の人類研究センター長。同リベラルアーツ研究教育院教授。専門は美学、現代アート。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。主な著作に『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(光文社)、『どもる体』(医学書院)、『手の倫理』(講談社選書メチエ)など。2020年、池田晶子記念「わたくし、つまりNobody賞」、『記憶する体』(春秋社)を中心とする業績でサントリー学芸賞を受賞。
高野秀行(たかの・ひでゆき)
1966年東京都生まれ。ノンフィクション作家。ポリシーは「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをし、誰も書かない本を書く」。『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)でデビュー。『ワセダ三畳青春記』(集英社文庫)で酒飲み書店員大賞を、『謎の独立国家ソマリランド』(集英社文庫)で講談社ノンフィクション賞等を受賞。著書に『幻のアフリカ納豆を追え!』(新潮社)、『辺境メシ』(文春文庫)など多数。歴史家・清水克行との共著に『世界の辺境とハードボイルド室町時代』(集英社文庫)などがある。