ブリコラージュを使用し、目的にそった言葉を中心に学習
高野 なるほど。コントロールしない探索力が鍵なわけですね。ブリコラージュ学習法と名付けている、僕の語学学習法とも似てますね。ブリコラージュとは人類学者レヴィ=ストロースが提唱した概念ですが、その場にある間に合わせの道具や方法で必要なものを自分でつくるという意味で、例えば、ミャンマーの少数民族の人たちとジャングルで一泊すると、その辺の木や竹を切ってチャチャッと仮の小屋を作り、雨露をしのぐわけです。
僕が25以上の言語の学習でやってきたのは、ほとんどブリコラージュ。目的に合ったものを、今その場でできる方法をフル活用して行っていく。適当にネイティブの人を見つけて習うんですが、目的にそった言葉を中心に学習していく。例えば、コンゴでの怪獣ムベンベのリサーチなら、その調査に必要な分だけの語学をやればいい。「電車がいま遅れています」「カフェはビルの5階にあります」みたいな、現地で絶対に使わないようなフレーズはそもそもやる必要がないんです。
普通の学校教育における語学は、決められた手順に従って、設計図にそって順番に積み上げていくいわばエンジニアリング。基礎から入って、初級、中級、上級って順番に上がっていくから、スカイツリーのような壮大な建築を建てられるわけですよね。かたやブリコラージュは、完成図もなく、その場しのぎの手探りで進んで行くから、全然制御が利かない(笑)。
「全然制御が利かない」のにコミュニケーションが成立する理由は?
伊藤 そこもすごく面白くて、学校で習う語学のアプローチは体系化されていて、抽象度が高いぶんリアルに通用しない言葉も多いんですよね。高野さんはまるで言葉を食べるように、その土地の生きた言語を摂取されている。
柏野牧夫さんの研究で、桑田真澄元投手の投球フォームを取り上げたのですが、リアルな環境の中で、柔軟に体は変わって最適なものを採用していて、まさにブリコラージュ化してるんですね。本人は同じように投げているつもりなのに、ボールのリリースポイントは14センチとかズレている。でも結果は同じという。
桑田さんが凄いのは、環境の諸条件――地面の状況や湿度や風などが変わるので、その誤差を吸収するために、意識的な調整ではなく、体が勝手に解いているところ。桑田さん自身はそれを制御しようと思わないと言っていることが素晴らしくて。
高野 僕も一野球ファンとして、衝撃的でした。普通ピッチャーがボールを離すポイントは1センチでも狂ったら何十センチもズレるから、絶対にリリースポイントは一定でないとダメだと言われますよね。やっぱり体のパフォーマンスって環境抜きには考えられない。