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音の変化による伝える力は大きい

高野 音調とか、声の大きさだけでも、相当いろんなことが話せますよね。本に出てきた、目の見えない方とのタコ焼きをつくる話もすごく面白かったです。

伊藤 目の見えない人がタコ焼きをひっくり返そうとするのを、まわりの3~4人が声かけするんですが、最初「もうちょっと右、3センチ」とか、座標軸的に教えていると、全然うまくいかなかった。最終的に「あー、あーっ」という声のトーンの変化だけになったんですが、そのほうが伝わるんですね。

高野 近くなってくると「あーっあーっ」と高くなって、遠くなると「あぁぁ~」って感じ?

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伊藤 そうなんです。それが一番情報量が多くて目の見えない人にもわかりやすかった。

 

高野 もともと言語ってそういう成り立ちなんじゃないかって思うんです。ジェスチャー付の「ああー」のニュアンスだけでも、すごくいろいろなことが言える。肯定的にも否定的にも「ああ?」の変化で伝えられるし、「あーあ」と落胆だって伝えられる。音の変化が伝える力は大きい。

語学の取得、音楽、スポーツを行なう際に最も効果的なアプローチは?

伊藤 同じフレーズでも語尾を上げるだけで疑問文になったりしますしね。言葉の抑揚や韻、リズムは、人間が地球上で体験したいろいろな感覚が反映されていると分析する神経学者もいます。

 そんな生きた言葉の音のやりとりの中から、高野さんは辞書にない言葉も見つけられたりして、ご自身で言語の法則を探していてすごい。

高野 探索したいんですよね。何かを理解するって、法則を見出して体系化することだから、そこを理解として先に進んでいく。例えばビルマ語を学んだ当時、まったく手掛かりがなかった。教科書も、辞書もないし、文法もわからない。仕方ないから、まず、動詞が変化するのかしないのか、もしするとしたら時制、人称変化がどうなっているのかをたどっていく。

 

 仮説を立てて、でも自分の立てた法則に反するものがあったら、そこでまた新しく考えるのを繰り返すのが、僕の探索ですね。

伊藤 仮説を立てて違ったら変えればいい、というのもブリコラージュ的ですね。その柔軟さは非常に重要で、音楽でもスポーツでも自分が掴んだ唯一絶対の最適解を決めて、それをひたすら洗練させるアプローチだと、うまくいかないときにスランプに陥ってしまいやすい。

 本の中では、「土地勘」という言葉で書きましたが、ブリコラージュ的になんとなく「こっちに行けば大丈夫」ってわかるという感覚のほうが、効率は悪いかもしれないけれど、リスクには強いんですよね。

高野 本当にそう思います。