語学力の半分は話し相手側にある
語学習得の観点からいえば、一般的に語学力の概念は、英検2級だとかTOEFL750点とか、個人の能力として捉えていますが、本当にそうなのかな?と思います。僕は英語はブロークンで、何とか言いたいことは伝えられるくらいですが、アジアやアフリカ、南米などの非ネイティブの国では概ね問題ないんですね。現地でのラジオやテレビの言葉も大体わかる。ところが、CNNとか聞くとキャスターの言っていることがさっぱりわからない(笑)。
だから、個人の中の絶対語学力は半分くらいしかなくて、あとの半分は話し相手側にあると思うんです。会話はコミュニケーションだから、相手によって、僕の話す英語がすごくよく通じたり、全然通じなかったりする。語学力って相対的なもので、自分の中には半分しかないというのが、最近の考えですね。
伊藤 おっしゃる通りだと思います。私は吃音なのですが、吃音の人って、相手の力を借りて喋るのがすごくうまい。うまく発話できない単語があると、相手に言ってもらったりする。物理的に同じ空間で話すと楽ですし、例えばテーブルの上に、言いたいものが置いてあれば、誰が言ったのかは実はあまり関係なくスムーズに意思疎通がとれます。喋る力が足りなくても、人の力を借りれば成立するんですよね。
高野 コミュニケーションの本質ですね。
言葉が通じないフランス、イラクで感じた語学の成り立ち
伊藤 私は基本的に語学が苦手なんですけど、唯一生きた環境の中で学んだ言葉はフランス語。20歳の頃に刺繍職人になろうと思って、パリで職人に弟子入りしてた時期があるんです。刺繍をどうやるかを教えてもらいながら、フランス語を学ぶことになったのですが、刺繍の道具の単語とか、実際に作業しながら具体的なものを介してフランス語で勉強するので、なんの苦も無く入ってきて覚えられた記憶があります。
高野 僕の学習法と近いですね。先日イラクに行ってきたんですが、今回の旅のテーマの一つが刺繍だったんですよ。
伊藤 えっ、ホントですか!?
高野 そうなんです。イラクの湿地帯特有の伝統的な刺繍の布があるらしく、謎に包まれているから探索しようと思って。当初は現地に何年も一緒に仕事している英語に堪能なイラン人のパートナーがいて、もう大船に乗った気分でいたんですね。ところが土壇場でその人が病気で入院しちゃったから、即席で最低限覚えたのが、アラビア語とイラク語の刺繍関係の言葉です。布、刺繍、針、糸、染料、ウール……とにかく布探しに必要な単語だけをインプットして出掛けました(笑)。
伊藤 思わぬ接点ですね。私がやっていた刺繍は、シャネルやイヴ・サンローランのよなオートクチュールだったのですが、実はその時の指導で面白かったのが、フランス人の「オララ~」という言葉の使い方。あれにはいろいろとバリエーションがあって、私が下手くそにやると「オララ~」のニュアンスで、言わんとする指導が伝わることがよくあって。