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「燃料棒は冷却できるのか」

 米側の不満が危機的に高まっていることを知った私は、3号機が水素爆発を起こした3月14日、第一次安倍晋三政権で共に総理秘書官として勤務した経済産業省の今井尚哉貿易経済協力局審議官(後に第四次安倍第二次改造内閣で総理補佐官)に電話を入れた。目的は、原子力安全・保安院を所管する経済産業省との意思疎通を強化すること、そして、原発事故に関する情報を米側に提供し、理解と協力を得るためのプラットフォーム(協議体)設置について意見を聞くことだった。

 原子力災害について日米情報共有の不存在を指摘する今井氏の言葉に意を強くした私は、まず、米側のニーズを聞く作業に着手した。15日に外事情報部長室に米側を招き、初会合を持った。警察庁側のメンバーは、私と永井達也外事課長(後に警察大学校長)を含め3人だった。

北村滋氏

 会合の冒頭ではこちらから原発災害の概要について説明。内容は東電や政府の担当部局から発信、共有されていた放射線量等のデータのほか、建屋の損壊状況、政府と東京電力、自治体等の現場での対処状況について外事情報部で整理したものが中心だった。開示可能なデータに基づく資料であったが、政府機関のエンドースを受けたものであり、先方は大いに謝意を示した。つまり、それだけ情報が不足していたということだ。

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 初会合では、米側が4号機の燃料プールで保管中の使用済み核燃料の状況を極めて深刻に受け止めていることが窺えた。コロンビア大学で南アジア史専攻のPh.Dを有している学究肌の相方が、「燃料棒は、確実に冷却できるのか」「確かな戦略、技術はあるか」――。先方は疑念の色をにじませながら矢継ぎ早に確認をしてきた。

「外事警察秘録」の全文は、「文藝春秋」2023年2月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されています。

文藝春秋

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