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「鈍器で殴るくらいの文章を書きたいな、と…」作家・千早茜が直木賞受賞作『しろがねの葉』で描いた“闇の世界”

「鈍器で殴るくらいの文章を書きたいな、と…」作家・千早茜が直木賞受賞作『しろがねの葉』で描いた“闇の世界”

直木賞受賞・千早茜さんインタビュー

2023/01/21
note

「闇」の描写が生まれるまで

――石見銀山や周辺を歩いて、どのようなことを感じましたか。

千早 石見銀山って幸運な鉱山で、採掘にダイナマイトが使われるようになった頃にはほぼ閉山していたんですよね。だから、破壊されていないので自然がわりと残っているんです。昔の手掘りの穴が緑に覆われて残っているのがラピュタっぽくて(笑)、すごくよかった。中まで入れる穴は限られていましたが、入るとやっぱり真っ黒で、結構怖かったですよ。

――そこから間歩(まぶ:銀を採るために掘った穴)の中の闇の描写が生まれていったんですね。

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千早 そうです。今回いただいた感想のなかに、「闇って描写できないのに、よく題材に選びましたね」と書かれたものもありました。でも、映画や漫画だと闇は黒でしか表現できないけれど、小説だったら闇の中でも肌触り、匂い、音……全部書けるんです。

鈍器で殴るくらいの文章を書きたい

©文藝春秋

――描写力、表現力が圧倒的に素晴らしいと思いました。一文たりとも気を抜いていなくて、ものすごく豊かで美しくて怖くて、こちらの五感を総動員させてくれる文章世界でした。

早 今回は、わりと重めの、鈍器で殴るくらいの文章を書きたいな、と思っていました。文章が濃すぎて抽出するのが大変で大変で、1か月かけて30枚書けないこともありました。ゲラで確認作業をしている編集さんもヘトヘトになっていましたね(笑)。

――いろんな表現を使われているので、闇といっても、いろんな闇を経験した気持ちになりました。どうやって言語化しているのかな、と。

千早 実際に間歩に入った時の音や質感や匂いを、書く時に全再現するんですよね。最初の頃は、夜に書いていると手足がひやーっと冷たくなってきてしまって。これは危ないと思って、昼間に書くようにしました。

 私の場合、自分の頭の中の箱庭みたいなものにその場所を立ち上げて、そのなかのどこに焦点を当てるかで文章を変えていく感じです。太陽がどこにあって、風がどれくらい吹いていて、葉っぱの間から差す光はどんなふうに揺れているかといったことを全部再現させて、どう文字で切り取るか決めていく。場所を一回立ち上げればもう大丈夫なんですが、立ち上げるまでが大変です。