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「鈍器で殴るくらいの文章を書きたいな、と…」作家・千早茜が直木賞受賞作『しろがねの葉』で描いた“闇の世界”

「鈍器で殴るくらいの文章を書きたいな、と…」作家・千早茜が直木賞受賞作『しろがねの葉』で描いた“闇の世界”

直木賞受賞・千早茜さんインタビュー

2023/01/21
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「どうしてそんなに格好いい男を書けるのか」と訊かれて…

――意見が分かれるということは、それだけ魅力的な人たちを書きわけられた、ということですよね。

千早 そうなんでしょうか。このあいだも他の作家さんに「どうしてそんなに格好いい男をたくさん書けるのか」と訊かれて「わからない」って答えたんですけれど。『男ともだち』のハセオも大人気だったんですが、私は全然好みじゃないんです。私の好みは『魚神(いおがみ)』のスケキヨと『透明な夜の香り』の小川朔と今回の龍ですが、彼らはそこまで人気がない。好みを反映すると人気が出ない気がします(笑)。

――女性では、夫を亡くすおとよ、遊郭にいる夕鶴、旅芸人のおくにらが登場しますが、おくにって、歌舞伎の原型を作ったという出雲阿国のことですよね?

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千早 出雲阿国を調べていたら温泉津に来ていたという記録があったんですよね。それで登場させたいと思いました。時代小説ってそういうことができるのが面白いですね。それで阿国と一緒に行動していたとされる菊も出しましたが、実は……という話にしました。

――最初から、1人の人間の長い時間を書くとは決めていたのですか。

千早 はい。生まれてから死ぬまでを書くと決めていました。これまで、主人公の人生の中の1年くらいの時間を書くことが多かったんですが、『ひきなみ』あたりからちょっと長くなってきていたので、次は一生を書こうと思いました。この先いつか、三代記を書いてみたいです。どういう人たちを書くかは、これからゆっくり探していきます。

©文藝春秋

――今回、千早さんの文章の巧さを改めて実感しましたが、思えば小説すばる新人賞を受賞したデビュー作『魚神』でいきなり泉鏡花文学賞を受賞されましたよね。当時から千早さんは純文学も書けるのではないかと思っていましたが、ご自身はどのように考えていますか。

千早 今、純文学誌の『すばる』で短篇を書かせてもらっているんです。やりたかったことなのですごく嬉しいです。ずっと純文学かエンタメのどっちを書くのか決めないといけないんだろうかと悩んでいたんですけれど、去年くらいから吹っ切れて、書きたい作品によって媒体を選べばいいと思えるようになりました。各出版社に信頼できる方々がいるので、「こういうものを書きたいんですけれど、どの媒体がいいでしょうか?」と相談もできる。今、すごくいい環境にいます。

期間限定の東京暮らし

――ところで、ずっと京都にお住まいでしたが、今は東京にお住まいだそうですね。

千早 そうなんです。3年だけ東京に住んでみようと思い、21年に来ました。ですが、考えてみたら京都でも東京でも家から出ない生活なので、あまり変化はないんですよね。ただ、東京って京都より空気が乾燥している気がします。それと、水が硬い。なので出汁が全然でないけれど、紅茶は美味しいです。

――今年の刊行予定は。

千早 受賞第1作は4月に集英社から出る『赤い月の香り』です。『透明な夜の香り』の続篇です。主人公は変わりますが。

 8月には文藝春秋から婚活の話を出す予定です。『しろがねの葉』とはまったく違うテイストですね。

写真撮影=松本輝一/文藝春秋

しろがねの葉

千早 茜

新潮社

2022年9月29日 発売

「鈍器で殴るくらいの文章を書きたいな、と…」作家・千早茜が直木賞受賞作『しろがねの葉』で描いた“闇の世界”

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