「はい、カニカマです」
「はい、カニカマです」
店長は考えるそぶりもなく即答し、何をわかりきったことをという顔さえしてみせた。
――メニューにはカニと記載があり、注文の際にも本物であるか確認しました。カニとカニカマは別物ですが、その認識はありますか?
「はい。インドでもカニカマは食べます。カニカマとカレーの味が合うし、殻付きのカニだと食べづらいというお客様からの声があり、カニカマを使っています」
店長によると、一時期は本物のカニを使っていたこともあったそうだが、カレーにすると殻付きのカニは食べづらいため、しばらく前からカニカマを使っているという。
――カニカマを使って1皿3000円は高いと思うのですが、価格についてはどう思いますか?
店長はカレーの原材料をインドから輸入しているため、カレー自体の単価が高いことを説明した。そして、食品の値上げや昨今の世界的なエネルギー高騰などの影響を受けていることについても触れた。
店長の理路整然とした説明と堂々とした態度に、あやうく納得しそうになる。しかし、問題は「カニ」を謳っておきながら「カニカマ」を使っているという、“偽装表示”だ。そして店側はカニカマを使っているとあっさり認めた。
「これはカニカマでは?」「いいえ本当のカニです」という押し問答になることを想定していただけに、狐につままれたような気持ちになる。つままれついでに気になってきたのは、バンゲラズキッチンのいう「カニカマ」が果たして本物のカニカマなのかということだ。
カニの専門家「間違いなくカニカマです」
当初の疑惑から少しズレるようだが、カレーの中の長方形の正体を、東京都内のカニ専門商社で聞いた。
「間違いなくカニカマです」
商社の男性はこう断言し、以下のように続けた。
「カニカマは、シート状に成形した魚のすり身に切れ目を入れ、ロール状に巻いて製造するのが一般的です。このカレーの場合、カニの身がシート状に剥がれているほか、繊維がほぐれずに連なっている点がカニカマの特徴と一致しており、天然のカニとは明らかに繊維感が異なります。もし天然のカニの脚が4本入っているとすると、1皿3000円はむしろ安すぎると思います。カニだけでもそれくらい、あるいはそれ以上の価格になるはずです」
今回のように、カニカマをカニとして提供している飲食店は少なくないという。
「カニと謳ってカニカマを提供している飲食店の話はよく耳にします。例えば、カニチャーハンと記載しながら、実際にはカニカマを使っている中華料理店もあります。明らかにグレー、もしかするとブラックだと思うのですが……」
飲食店でカニカマをカニと表示することに問題はないのだろうか。消費者庁によると、実際のものよりも著しく優良であると消費者に誤認させる表示の場合は景品表示法に抵触する可能性もあるが、メニューの文言自体を規制する法律はないため、ケースバイケースで判断する必要があるという。このため、メニューにカニと記載していながら実際にはカニカマだったとしても、それだけで違法だとは言い切れないとのことだった。