「シャンプーの詰め替えみたいな袋に支えられて生きている」
真大さんは兵庫県神戸市、遥さんは広島県世羅町の出身。2人とも小学校までは親元で過ごし、中高は地元から離れた盲学校に進学して寮生活を送った。真大さんは奈良県立大学で観光を学び、一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティに就職。今は月2回程度の東京出張のほかは自宅でのリモートワークだ。一方、遥さんは京都外国語大学で英語を学び、大阪教育大学特別支援教育特別専攻科を経て、教育関係の職に就いた。そして2人は2019年に結婚した。
遥さんは出産を控えた身で、自宅でも大きなお腹をかばうようにゆっくり歩いていた。妊娠初期にはつわりで水さえも飲めなくなり、2週間近く入院したという。
「500ミリリットルの点滴を1日3本するんですけど、点滴の袋ってどんなものなんやろうと気になって。指で突いてみたらプニプニして、ちょっと揺らしてみたら液体が入っている音がして。今の自分は、ちょっと硬めのシャンプーの詰め替えみたいな袋に支えられて生きているんだなぁと実感できました」
見えない彼らはこうやって世界を把握しているのだ。動画からも感じられるが、2人とも伝え方が上手く、言葉の端々にユーモアが滲む。
遥さんは、言葉が大好きだからですかね、と言う。
「見えている人は情報の8〜9割が視覚由来と言いますけど、見えない私たちは8〜9割が言葉です。しゃべらなかったら誰がそこにいるかもわからない。言葉ですべてのことを伝えようとするので、コミュニケーション手段としてすごく大事なものだし、口が行動的になるんです」
口を行動的と言い表す人は初めてだ。真大さんも「たしかにしゃべる人の方が多い気はしますね」と相槌を打つ。
彼らが行動的なのは口だけではない。
見える友人と一緒に遊ぶのはもちろん、見えない友人だけを集めてキャンプへ行ったり、音声で重量を知らせるはかりを使って粉から肉まん作りをしたりする。夫婦でも、近場の食べ歩きから、北海道や鹿児島などへの旅行までフットワークが軽い。そして行く先々で出会う人と積極的にコミュニケーションを取る。たとえばカフェで店員に妊婦でも飲めるものを聞いて、教えてもらったのがルイボスティーだったという。