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 ペケオというのは、まだ命名前で、おそらくは男の子と予想されていた我が子に話しかけるときに「X(エックス)」を日本語読みして、そのときだけ、勝手に「ペケオちゃん」と名づけ、夫婦だけの仮名として呼びかけていたのだ。

 妻は苦悶(くもん)の表情を浮かべながらも、不思議と穏やかにも見えた。

 吸入器のマスク越しに、「心配しなくていいよ。安心して産まれてきていいよ」と、そっと語りかけているようにも見えた。

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順調にせり出していた妊娠6カ月月の妻。そのあとには苦難が待ち受けていた(著者提供)

看護師に案内されて救急の待合室へ

 東大病院まで無事送り届けてくれたあと、すぐに次の現場へと帰りじたくをする救急隊と、日本医大付属病院に戻る医師の方々に、あわててお礼を述べる。冷静でテキパキと動きながらも、物腰はていねいで、プロの仕事が神々しく見えた。命を確実につないでいただいたことに、ありがたい思いがどっとあふれてくる。

「ご家族はこちらへ」。看護師さんに案内されて、がらんとした救急の待合室へ向かった。誰もいない長椅子に、前の病院から肩と手で持ってきた入院用具など5つのカバンと袋を降ろして、背もたれに身を委ねる。ここは巨大な東大病院の中で、いったいどのあたりに位置しているのだろう。

 東大病院には、外来診療棟と入院棟のあいだにかなり広いスペースを取った中央診療棟がある。救急から外来まであらゆる検査に対応した診察室がいくつも連なっていた。CTやX線などは救急用に別室があり、上部内視鏡、下部内視鏡、超音波内視鏡、気管支内視鏡、婦人科検査などを行う部屋が、救急で最初に運ばれる診療室があるゾーンに機能的に集中していた。

心配と祈り、後悔が頭をよぎる

 待っているあいだ、掲げられた病棟の案内図を細かく見るとかしていないと、座っていても落ち着かない。宿直の事務のスタッフから入院手続きの説明を受け、クレジットカードの登録などを済ませた。ふと、会計業務は取りっぱぐれがないようにどこの病院もしっかりしているのだなあ、と失礼な考えが浮かぶ。

 商売柄、人生のどんな局面でも、観察するような取材目線になってしまうのは嫌になることがある。半面、その染みついたサガのせいで、妙に冷静さが保てたような気もする。 

 それでも、妻と子の様子がまったくわからない中、ただひたすら待合室の時計を見つめているとロクなことを考えない。心配と祈り、そして後悔が、次から次へと頭をよぎる。