おぼつかない手つきでの育児
早産で低体重のまま産まれた子は、3歳ぐらいまで時間をかけて、ゆっくりと発達が追いつく。
低体重の早産児なので、成長や体格などは2カ月割り引いて考えるのが通例で、そうなると実質的には生後1カ月と思ったほうがいいそうだ。
片手に収まりそうな子猿のような小動物は、なにかあるとすぐに「フンギャー」と細い声で泣き叫ぶ。哺乳瓶による授乳(じゅにゅう)、オムツ替え、沐浴などはひととおり病院で教わったのだが、これが心もとない。
コロナ禍で面会の機会が激減していたため、それこそ「1回しかやらねえから、よく見ておけよ」という、伝統工芸の親方の職人ワザを盗むように(実際にはていねいに教えていただいたが)、おぼつかない手つきで始めることになる。
自治体やコミュニティによる「パパの育児教室」のようなイベントはコロナで軒並み中止になっていた。育児アプリやYouTubeなどで、見て覚えるしかない。
心筋炎が重篤化して心不全となりながらも奇跡的に命を救われた妻は、息子よりも早く退院していたが、もちろん無理はさせられない。
リモート勤務と時差出勤を組み合わせることに
この際、育児休暇を取ろうかとも思った。会社の制度上は、たとえ高齢パパでも取れる。しかし、いや待てよ。この先、息子の学資などを稼ぐために、70代まで働くことは覚悟している。これが20代、30代のパパなら、一時的に収入が落ち込んでも挽回(ばんかい)できるだろう。だが、私の場合、稼げるうちに1円でも多く稼いでおかないとなあ、という銭勘定が頭をもたげる。「体力」と「収入」の2語が体じゅうを駆け巡った。
こういうことを「不幸中の幸い」と言うのははばかられるが、コロナ禍にあって、会社はリモート勤務を全面的に推奨していた。これは我が家にとって、絶好の機会だ。上司に願い出て、リモート勤務と時差出勤を組み合わせることにした。
朝は育児をしながら、合間にオンラインで仕事をして、妻の体の負担にならない午後にバトンタッチ。会社に顔を出さないと片づかない案件をさっとこなす目論見(もくろみ)だ。そんな虫のいいことができるだろうか。いや、やってみるしかない。
あわただしい午前中のスケジュールはざっとこんな感じ。