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苦界の主役は中国人からベトナム人へ

 震災と尖閣の二重ショックが薄れたころには中国の経済発展が進んでおり、2015年ごろにはGDPが日本の約2倍になった。さまざまな要因が重なったことで、単純労働を目的とした中国の若者は、もはや日本に出稼ぎに来なくなった。

 2010年代後半になると、チャイエスで日本人男性を接客できる程度の「バイト日本語」が話せる中国人なら、インバウンド中国人観光客向けの免税店やドラッグストアで販売員として働いたり、日本のコスメやベビー用品を代理購入「代購(ダイゴウ)」して中国国内向けに個人輸出したりするほうが、ずっと簡単かつ合法的にお金を稼げるようになった。

 日中間の格差が縮小したことで、わざわざ格安の違法性風俗店で売春をおこなう若い中国人女性は激減する。結果、日本ではチャイエスという業態それ自体が下火になった──。 

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 だが、近年の関東圏ではこの風潮にさらに大きな変化が生じている。

 苦しい労働現場から中国人が消えたのと入れ替わるように、ベトナム人の出稼ぎ者が急増したからだ。

近年はチャイエスに日本人女性が勤務する例も

 摘発を逃れるためか非店舗型のデリバリー形式が主流になった近年の格安性風俗産業の現場では、日本人や中国人の経営のもと、ユキのようなベトナム人女性が大量に雇用されている。

 もとより売春防止法違反が前提の、コンプライアンス意識が根本的に存在しない業界だ。そこで働く外国人女性たちの多くは不法就労者である(余談ながら、健全な中国マッサージ店や中国スナックでも従業員がベトナム人に置き換わる動きが出ている。いっぽう、日本人の若者の貧困化やコロナ禍による渡航制限の影響から、近年はチャイエスに日本人女性が勤務する例も見られるようになった)。 

 2020年11月には、日暮里・西日暮里付近に拠点を置くデリバリー式のチャイエス「美ワンダフル」が摘発され、40代の日本人と30代の中国人の経営者と、24~35歳のベトナム人女性3人が逮捕されている。報道によれば、「美ワンダフル」はコロナ禍で困窮したり帰国困難になったりしたボドイやベトナム人留学生ら約30人を雇用し、月額1億円近い売り上げがあったという。

 この業者は若いベトナム人女性を特に多く揃え、派手に商売をやっていたらしい。ネットで店名を検索すると、摘発から2年以上(2022年末現在)が経ったにもかかわらず、実際に利用したらしき日本人男性客の口コミレビュー投稿やブログの体験記事が大量に引っかかる。

 これらには店舗の利用方法や具体的なサービス内容を詳細に書いているものもあった。熱心すぎる「ファン」の情報発信が、摘発の端緒になった可能性もありそうだ。