生涯で2人に1人がかかると言われる「がん」。でも、知っているようで、知らないことも多いのではないでしょうか。そこでジャーナリストの鳥集徹さんに、素朴な疑問をぶつけてみました。参考文献として信頼できるサイトのリンクも紹介しています。いざというときに備えて、知識を蓄えておきましょう。
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A8 標準治療こそ「最上」の治療です。
医師から「標準治療を予定しています」と言われたら、「なぜ最上の治療をしてくれないんだ」と思うかもしれません。しかし、それは誤解です。国立がん研究センターが運営するサイト「がん情報サービス」の用語集では、標準治療は次のように説明されています。
「標準治療とは、科学的根拠に基づいた観点で、現在利用できる最良の治療であることが示され、ある状態の一般的な患者さんに行われることが推奨される治療をいいます」
つまり、標準治療は「松、竹、梅」で言えば、「松」の治療なのです。ですから、標準治療を予定していると言われても、がっかりしたり怒ったりしてはいけません。むしろ、最良の治療をしようとしてくれていると理解すべきなのです。
では、現代の医療で標準治療はどのように決められているのでしょうか。それは、実際の患者を対象にした臨床研究のデータに基づいて決められています。臨床研究といっても様々な方法がありますが、もっとも信頼性の高いのが「ランダム化比較試験(RCT)」と呼ばれるものです。
たとえば、ある抗がん剤の効果を調べる場合、何百人という患者を対象に実薬を投与するグループと、偽薬(または従来の薬)を投与するグループとに無作為(ランダム)に分けます。くじ引きのような方法で無作為に分けるのは、片方のグループに元気な人が多くなるような偏りを避けるためです。こうすることで、実薬と偽薬(または従来の薬)の効果を比較できるのです。
そして、両グループの患者さんを何ヵ月、何年と追跡して、どちらのグループの成績(生存率など)が優れていたかを比較します。こうした臨床試験を積み重ねることで、「どんな患者にどの薬をどんな組み合わせで投与するのが最良か」を明らかにしていきます。そうやって生み出された世界中のデータを集めて、専門家が討議して決めたのが「標準治療」なのです。
抗がん剤だけでなく、手術、放射線、免疫療法などでも臨床試験が行われ、それらのデータをもとに、がん種ごとに標準治療をまとめた「診療ガイドライン」が各学会でつくられています。患者の年齢や体力、価値観などによっても「最善の治療」は変ってきますので、標準治療を絶対に受けねばならないわけではありません。ですが、診療ガイドラインは治療選択をする際の「基準」になるはずです。
自分や家族が「がん」と診断されたら、ぜひ該当するガイドラインに目を通してみてください。日本乳癌学会のように、患者向けの分かりやすいガイドラインをネットで公開している学会もあります。
【参考】国立がん研究センターがん情報サービス「がんに関する用語集」
日本乳癌学会「患者さんのための乳癌診療ガイドライン 2016年版」