「本田圭佑という人間は身の丈に合わない野望を意識的に持とうとしているサッカー選手です。『メッシに勝つ』とか『W杯で優勝する』とか、皆無理だろうと思うようなことでも言い続けてきた。でも、閉塞感のある日本では彼のような突き抜けた存在はどこか面白く感じられたんですよね。気づけば、彼のプロジェクトに関わるようになり、人生の長い時間を本田圭佑という人間とすごすことになってしまいました」
目を細めながら振り返るのは、スポーツライターの木崎伸也氏である。木崎氏は本田がオランダのチームに移籍したころから取材を続け、本田圭佑に最も近いジャーナリストとして彼のサッカー人生を見つめてきた人物だ。
昨年行われたワールドカップカタール大会では、本田の解説が広く話題を呼び、サッカーファン以外からも「分かりやすい」と注目を浴びた。しかし同時に、前回大会まではピッチに立ち、「W杯で優勝する」と語っていた本田が解説という“脇役”に甘んじていることに違和感を覚えるファンの声も少なくなかった。
「W杯で優勝する」「メッシに勝つ」とお得意のビッグマウスで言い放っていた本田は変わってしまったのだろうか。本田圭佑は今何を考えているのか、そして、どこに向かおうとしているのか。彼にほれ込み、15年にわたってその近くで取材を続けたスポーツライターの木崎伸也氏に、知られざる本田圭佑の素顔を聞いた。(前後編の前編)
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南アフリカW杯直前で起きた本田選手の異変
――まず、本田選手との出会いについてお聞きしたいと思います。木崎さんが本田選手と最初に会ったのはいつのことでしょうか。
木崎 本田選手との出会いは2008年のことでした。彼がちょうどオランダのVVVフェンロ―に移籍した時でした。僕はその頃ドイツに住んでいて、主にドイツのチームに在籍していた当時日本代表だった長谷部誠選手や稲本潤一選手の取材をしていました。本田選手が所属していたチームはドイツとの国境付近の街にあるので、ドイツ組の取材のついでに立ち寄ったのが出会いでした。
――第一印象としてはどうだったのでしょうか。
木崎 気さくな人という印象でしたね。僕が稲本選手の取材をしていると伝えたら、「じゃあ、俺の連絡先をイナさんに伝えてよ」と互いの連絡先を交換することになりました。その時、「何さんですか」と聞かれて「木崎です」と答えると「ちゃう。下の名前」と。もうヨーロッパナイズされてる距離感の詰め方だな、と適応力の高さに感心してしまいましたね。