ところが夕方、家に帰って洗面所の鏡を見た途端に「ああっ!」と声が出ました。右目が寄り目になっている! 黒目が見えないほどのひどい寄り目です。なんということでしょう。とても悲しくなりました。
すぐに大学病院へ、MRIを撮ることに…
ちょうど小学校5年生の長男コウスケ(仮名)が学校から帰ってきたので、一緒に近所の眼科に行きました。途中、薬局で眼帯を買ったのは、寄り目の自分を知り合いに見られるのがイヤだったからです。
眼科の先生はまず、「どうして眼帯をしてるの?」と私に尋ねました。「先生、こんなことになってしまったんです」と私が眼帯を外すと、先生はどこかに電話をかけて「フレッシュな患者さんがいるんです」と言いました。
「そうか、私はフレッシュなのか」と、くすぐったい気持ちになりましたが、先生の顔は真剣でした。
「すぐに大学病院に行ってください。予約をしておきますから」
事態の深刻さがわかっていない私が「ご飯を食べてからでもいいですか?」と聞くと、「いますぐ行ってください!」と先生から叱られました。さぞかし呆れたのでしょうね。
大学病院に着いた時点で外来の受付時間は終了。でも、眼科の先生があらかじめ電話を入れてくださったおかげで、すぐに対応してもらえました。
若い先生から渡されたA4サイズの紙には大きな文字で「後頭部が痛いですか?」など、いくつかの質問が書かれていました。他の質問は覚えていませんが、後頭部は確かに痛かった。
「MRI(核磁気共鳴画像法)を撮りましょう」と言われて、コウスケとふたりで待っていると義母が来てくれました。旦那のお母さんです。近所の眼科の先生から「大学病院に行ってください」と言われた時点で電話をかけておいたのですが、すぐ来てくれて本当にありがたかった。これで子どもたちは、とりあえず家に帰ることができます。娘のいる保育園の名前や場所を説明しようとすると、義母は優しく言ってくれました。
「大丈夫よ。保育園の場所はお兄ちゃんが知っているでしょ? お迎えに行ってふたりに何か食べさせてからあなたの家に帰るから心配しないで。都合がいい時に連絡してちょうだい」
テキパキしているお義母さんにおまかせすれば安心だとホッとしました。
まもなく、私は生まれて初めてMRIを撮りました。読者の皆さんも、テレビで見たことがあるかもしれませんね。強い磁石を使う大きな装置で、身体を輪切りにした映像を撮るのです。
まず横になり、頭にヘルメットみたいなものを装着。撮影中、大きな機械音がするので耳栓をします。気分が悪くなった場合に備えて緊急コールのブザーを持たされて準備完了。やがて私は、装置の中にするするっと自動で吸い込まれていきました。まるでサンダーバードに乗り込む時のようです。でも、作動している間中、ビービー、カンカン、隣で新築工事をしているみたいな音がずっと響いていて、とにかくうるさい。20~30分くらいだったでしょうか。
検査結果はすぐに出ました。異常なし。
あれ? 私の目は?
「MRIに写らないものがあるかもしれないので、とりあえず外来でまた来てください」
先生にそう言われてタクシーで自宅に戻り、義母に帰ってもらったのが夜の9時頃。まもなく旦那から「無事にアメリカに着いたよ」という電話がありました。
病院に行ったことを私が黙っていたので、子どもたちからは「どうして目が見えないってお父さんに言わないの?」と聞かれましたが、こう答えました。
「アメリカは遠いし、心配をかけるだけだからね」
こうして私の長い一日が終わりました。