史上初ウクライナ正教のクリスマス・ミサ
聖堂2階に陣取っていた、聖歌隊のこれまた厳かな聖歌のコーラスで、史上初のウクライナ正教のクリスマス・ミサは始まった。
まあ宗教儀式やその意味するところはさっぱり分らんが、寺院内はすでにカメラも持ち上げられないほどの信者が胸ときめかせ駆けつけていたのである。特に髪をスカーフやフードで覆った女性信者が目立つが、皆無言である。中には迷彩服姿の軍人らしき信者もみられた。その中を聖職者が燭台を掲げながら動き回るたびに、映画「十戒」(古いですが)のように信者の人波が割れる。いやいや映画でたとえるなら、むしろこの圧迫感はルパン三世の「カリオストロの城」の結婚式のシーンである。
そんな息も詰まるミサが2時間は続く。脇の下の滴り落ちる汗は寺院内にこもる熱気のせいだけやない。この信者のなかに目につくカメラマンは、法衣をまとったままカメラを担ぐオフィシャル(公式記録係)らしき聖職者のほかは、女性カメラマン含めわずか5人。日本の大新聞、大テレビ局の記者さん、カメラマンは軒並みキーウにいてるはずやけど、皆どこに行ったんやろ。いやあこんな近くで神に会えるのである。選ばれし者の恍惚がこの身を打つ。
祭壇の奥にさらに聖室が見えるが、そこには聖職者しか入れない。まさにイエスの棺かなんかを表してるんやろか。信者は顔を上げるたびに胸の前で十字を切る。やがてエピファニー主教始め聖職者らのありがたーいお説教が続いたが日本人のワシが分ろうはずもなかった。ミサが終わると各々の聖職者のまえに信者が行列をつくり、「ナタリヤです」「オリガです」と名乗ると、聖職者たちはまるでジュウシマツに餌をやるように、信者たちが差し出す舌の上にスプーンでなにか赤いもんを載せ、祝福を授けていた。
外は鳴り響く砲声
寺院を一歩出ると相変わらず粉雪が舞っていた。クリスマス・ミサの興奮さめやらぬ信者らが讃美歌を斉唱していた。幸いにもここペチャルシク大寺院は砲撃されることはなかったが、プーチンがコキだした停戦が守られることはなく、砲声はやむことはなかった。
スマホで白タクも呼べる。ぼられる心配もない。気がかりだった空襲警報も停電も昨夜はなかった。バリケードとチェックポイントだらけの首都中心部にも人も車ももどりつつあるように見える。なんちゅうてもワシは平和なキーウを知らんのである。カメラをとりだすだけで、軍人や警察官がすっ飛んできた独立広場にはいまや黄色とブルーのツートーンカラーの無数のウクライナ国旗の小旗が寒風にはためいていた。
英語とウクライナ語で「プーチンに殺されたウクライナ人の数」と刻まれた碑の下には犠牲者とおなじ数の何万の小旗が翻っていた。その中にはウクライナの外国人義勇兵として戦い倒れたグルジア(ジョージア)兵のためのグルジア国旗や、星条旗、さらにスウェーデン国旗やイギリス国旗も見える。武器こそ公式に援助してないものの、ウクライナのために戦いながら、武運拙くこの地で倒れた日本人義勇兵もいたはずやが、日の丸はなかった。いずれウクライナにお運びになるに違いない我らが岸田首相! ここに日の丸の小旗忘れんで持っていき、きっちり立てるんやで。
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