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「カムカム」では主人公・安子(上白石萌音)の兄・算太(濱田岳)が少年の頃、近所の商店のラジオを窃盗したことにはじまって、成人後は安子の開店資金を持ち逃げしてしまうなど、なにかと問題を起こした。窃盗はご近所づきあいと、まだ少年であることで不問に付され、持ち逃げは長い年月をかけて罪を償うので、「ちむどんどん」の賢秀よりはましとはいえ、歴史は繰り返すというふうに、安子の孫に当たる高校生・桃太郎(青木柚)がラジオを窃盗した店の子孫の店で再びCDプレイヤーを窃盗するという展開があって、それに嫌悪を感じる視聴者もいた。

濱田岳が演じる算太 「カムカムエヴリバディ」NHK公式サイトより

 放送当時、筆者が「Yahoo!ニュース個人」でプロデューサーと演出家に質問をしたところ、「“青春の苦い1ページ”として、算太同様、桃太郎をあたたかく見ていただきたいと願っています」「殺人事件を扱ったドラマもありますので、劇中で犯罪を描くこと自体は問題ではないですが、罪を犯すキャラクターが誰であるかは大事と僕は考えています。倫理的に破綻した人物には共感しにくいものなので。ですから、ヒロインや相手役など、視聴者のみなさんに感情移入して頂きたい人物には、犯罪はもちろん、倫理的にどうだろうと感じられるような行為はできるだけさせないことは意識しています。とはいえ、物語の流れの上で必要だった算太や桃太郎の犯罪については、みなさん、許してやってくださいと心の中で頭を下げながら見守る気持ちです」という回答をもらったことがある(「〈カムカムエヴリバディ〉桃太郎が万引。登場人物の悪事をどう描くかNHKに聞いた」22年3月11日配信記事より)。

 物語に清廉潔白な人しか出てこないことは逆に不自然であり、悪さをする人が出てくると不快であるという視聴者の主張が妥当であるかは難しいところである。とはいえ、ゆるされてしまうことに釈然としない気持ちを抱くことも理解できるのだ。

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 その点、昨年再放送された「ひまわり」(96年前期)は主人公・のぞみ(松嶋菜々子)の弟・達也(遠藤雅)が窃盗事件の容疑者として逮捕されるが、冤罪で、この件をきっかけにのぞみが弁護士を目指すことになるという、事件はショッキングながら弟は無罪でホッとでき、かつ主人公は前進するという流れは朝ドラとしてはギリギリ攻めた描写だったのではないだろうか。

 ところが、30年近く経って時代が令和になり、罪を犯しても家族や近隣のひとが大目に見るという物語にチャレンジしたら、SNSの時代、激しく物議を醸してしまった。「舞いあがれ!」の悠人がやってしまったことをちゃんと認めて責任をとる流れになっているのは、前2作の反省によるものと考えられないこともない。

 もともと悠人は、投資家になった時点で、なにかやらかすに違いないと視聴者は想像していた。投資で失敗して一文無し、あるいは借金を背負って、舞たちに迷惑をかけるのではないかという声に、チーフプロデューサーは悠人は「クズキャラではありません」とたびたび言っていた。

 インサイダー取引に手を出してしまったがそれも顧客に損をさせたくない一心であり、やってはいけないとわかっていながらやってしまったことを潔く認め、逃げずに自分のしたことに向き合おうとする行動は、たしかにクズではなかった。むしろ清々しく、朝ドラにふさわしいキャラといっていい。

「舞いあがれ!」公式Twitterより

 そもそも早くから自立して家族に経済的に依存していない、よくできた人物なのだ。金融業ということでブラックとは言わないがグレーな印象を抱きがちで、金髪にしていつも薄暗いところにいて鋭い目をして家族にもきつい物言いをしていたから誤解されそうだが、実は朝ドラファンには好まれそうなホワイトな人物・悠人を横山裕がいい塩梅で演じていた。

生田斗真も賞賛する俳優・横山裕の魅力

 かつて横山裕は映画「破門―ふたりのヤクビョーガミ」(17年)で「クズ」キャラを演じていたのも手伝って今回もクズなのではないかと思った視聴者もいただろう。ただ、この映画でも自分で「クズ」と言いながら、そこまで落ちきらないギリギリを保っていた。やんちゃでキレ者の雰囲気を醸しつつ、寂しさや、ためらいなど、儚い部分を感じさせるのが横山裕である。それが「舞いあがれ!」の悠人に生きた。