ブレない人、正しい人だと言われたい、他人に認められたい……社会集団の中で人は誰もが承認欲求と無縁ではいられない。無意識の情動に流されながら、あいまいで不安な状態を嫌い、自らを正義に置くことで他者を糾弾し安心を得たがるのだ。
ここでは、自身の人生と脳科学の知見を媒介に、ヒトの脳に備わる深い闇を鮮やかに解き明かした脳科学者・中野信子氏の著書『脳の闇』(新潮社)から一部を抜粋。中野氏が子どもの頃から感じていた“生きづらさ”とは――。(全2回の1回目/2回目に続く)
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子どもの頃から感じた分断
自分は異質であるのかもしれない、と足元が揺らぐような思いを一番強く感じていたのは小学校に上がる前のことだ。この人たちのいる世界は私のいる世界とは本当は別のもので、私がこの人たちといるのは極めて不自然なことなのではないか。鏡を見て自分のことを客体化する時間を持ったり、世界の色が変わっていく夕景を見たりしては、感情が抑えられなくなることもあった。
これを祖父母も両親もなだめようとするのだが、この悲しさや切り離されていることの不条理な感覚というのは子どもが口にして理解されるようなものでもない。うまく伝えることができず、そのたびにまた分断を感じてしまった。
友だちを作って無邪気に遊ぶ姿を見せることでもすれば大人たちは安心したのだろうが、労力をかけてまでそんなことをする気にもならず、あまり「良い子」ではなかった。自然に友だちができるとか、好きなものを好きと言うとかは、みんなにはできること。
けれど、私には難しい。学校に上がってからもこれは変わらず、私はかなり浮いた存在で、誰からも遠かった。いじめにすら遭わなかった。隙間なくコーキングされた透明な壁の向こう側にいるようなもので、同じ空間にいるのだけれど、同じ空気を吸うことはなく、混ざり合わない。