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「イケメンなら誰にでもホイホイ付いていくのだろうか」ルックスで結婚相手を選ぶ人に中野信子が抱いた“違和感”

『脳の闇』より #1

2023/02/14
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放射線に晒され続け、白血病を発症

 彼女の家計管理については独自の方法がとられており、家計簿は夫婦それぞれの支出が一目でわかるように別々に記入されていたという。一般的には使う項目別に記述されることが多いだろうが、家族それぞれの使途が細かくチェックできるということから、こうした方法をとったようだ。

 男性科学者にこういう作業をさせたら、夫の足を引っ張るどんな悪妻かと妻のほうが糾弾されそうなものだが、女性科学者に関して言えば、夫が家計簿をつけたり育児をしたりすることはあまりないようだ。

 マリーは放射線に晒され続け、白血病を発症して66歳で亡くなった。

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 自身が結婚に向いていたかどうかなど、彼女は考える暇もなかったかもしれない。当たり前のように結婚をする時代でもあっただろうし、子どもを育てることも家計の管理も女性の仕事とされていた社会に生きていただろうから、そのことについて疑念を抱いている暇があるなら研究のことを考えていたい、という人でもあったかもしれない。 

結婚に向いている人と向かない人

 ただ、もし彼女が男性だったら——歴史に if は禁物、というのを承知の上であえて考えれば——3度目、4度目のノーベル賞もありえたのではないか。女性であっても、もし結婚していなかったら、ということもしばしば頭の端に上ってしまう。不謹慎を承知で書くが、ピエールが早くに亡くなったことで、却って仕事に没頭できたのではないかという可能性についても考えてしまわないでもない。

 結論をいえば、マリーは結婚に向かない人ではなかっただろう。家の切り盛りも子育ても人並み以上の結果を出している。そして、このことをもって、仕事と家庭の両立を誰にでもその気になればできることだと、女性を追い詰める道具として使わないでもらいたいと願う。結婚に向いている人がいる以上、向かない人もいる。それを多様性というのであって、どちらかが優れているというものではない。

 けれど、論理的でも頭がよいでもない一部の人たちは、社会通念に頭を乗っ取られ、こうあるべきだと他人を追い詰める快楽にいつの間にか中毒してしまう。そんなジャンキーたちに奪われるほど、自分の人生は軽くないはずだと、多くの人が開き直ることができるといいと思うけれど。

脳の闇 (新潮新書)

脳の闇 (新潮新書)

中野 信子

新潮社

2023年2月1日 発売

「イケメンなら誰にでもホイホイ付いていくのだろうか」ルックスで結婚相手を選ぶ人に中野信子が抱いた“違和感”

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