頼りない戦国武将にすぎなかった家康が、いかにして天下人に上りつめたかを『どうする家康』は描く。

 彼が興した徳川幕府が二六〇年も存続したのは何故か。それを男女逆転のパラレル・ワールド史観で解き明かすのが『大奥』だ。

 では、その江戸幕府はどのように呆気なく終焉を迎えたのか。それをテンポよく、ギャグもちりばめ、しかもシビアに迫ったのが、『いちげき』だった。

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 すごいよ。江戸近郊の百姓が、倒幕派の侍を「ウンコラショ!」と切り倒すんだから。有名な武士なんて、勝海舟(尾美としのり)くらい。対する一撃必殺隊は、ウシとかイチとか無名の百姓ばかりだ。

 時は幕末。慶応三年一〇月の大政奉還直後だから、翌年四月の江戸城無血開城まで、残り僅か、幕府は崩壊寸前だ。江戸に接する千葉の寒村に、えらく待遇のいい隊士募集があった。いま市中で暴れる薩摩の御用盗を斬れば、侍にしてやるという話をもってきたのは、元・新選組隊士の島田幸之介(松田龍平)だ。

 近在の力自慢を集めて、選ばれたのが、染谷将太が演じるウシ(丑五郎)、町田啓太のイチ(市造)など七人だ。侍を夢みるイチと異なり、勘のいいウシは旨すぎる話を警戒している。

染谷将太

 御用盗は豪商などを襲って、江戸市中をパニックにする西郷隆盛の発案だ。かなりワルです、西郷(せご)どん。しかも薩摩とは名乗らない非正規部隊、ゲリラだ。

 じゃ、こちらもゲリラで奴ら斬っちゃおうと、勝が島田に指図して最速で作ったのが一撃必殺隊だ。

 刀を持つのも初めての百姓たちの訓練は、たった一週間あまり。初戦で四〇人もの薩摩勢を相手に、僅か七人の百姓侍は、力まかせに前後から斬りこみ二〇人を殺す。「お百姓さんって凄いんだね」と勝海舟。

 人を斬ると、性格も変わる。何人殺しても平気だ。戦闘の後は遊廓に。ウシに付いた人気のソノ(西野七瀬)は彼の手を触る。「ゴワゴワした手。懐かしい、オラも百姓の娘だから」。いい役貰ったね、西野。

 薩摩の伊牟田尚平(杉本哲太)が、寵愛していた若侍をウシに殺され、狂乱状態でウシを追いつめる姿には恐怖と悲哀を覚えた。

 やがて西郷と勝の手打ちが済んだのか、一撃隊は解散。生き残った者は新しい時代に散らばっていく。

 明治が始まる。多くの人々は徳川の時代を忘れ、新しい世に順応していく。みんな適応力が高いなぁ。

 かつて立川談志は「江戸っ子って何ですか?」と訊かれて、「佐幕だよ」と即答した。「薩長の田舎侍じゃなく、徳川様をお慕いする。これが江戸っ子だ」

 脚本の宮藤官九郎のシリアスな笑いが冴え、染谷将太が存在感マックスの演技で観る者を圧倒した。今季ベストのドラマだ。

INFORMATION

『正月時代劇 いちげき』
NHK総合 スペシャル番組
https://www.nhk.jp/p/ts/BL2M2JP15Z/