時代劇って、いまひとつ興味が湧かなくって。そんな私が、今期のNHK土曜時代ドラマ『螢草 菜々の剣』は楽しく観ている。

 と書くと、勘のいい読者に突っこまれそうだ。オマエのお目当ては、ヒロイン役の清原果耶だな、きっと。バレバレですね。

清原果耶(第44回エランドール賞授賞式にて) ©AFLO

『俺の話は長い』で生田斗真の姪、春海(はるみ)を演じた彼女の清々しさと存在感に、ハートをわし掴みにされちゃってね。録画を繰り返し観てるとき、『螢草』放映の朗報を目にした。

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 しかし所詮、にわかですから。このドラマが昨年夏に放映されたBS時代劇の再編集版だと知らなかった。でも私同様に初見の人もいると思うので、『螢草』とカヤちゃんの魅力を、じっくり考えましょうよ。

 武家の娘であったが、奸計によって父は切腹、菜々は農家の娘として育つ。母の病死を機に村を出た菜々は、鏑木(かぶらぎ)藩の上士、風早家の奉公人となる。主の市之進(町田啓太)は正義感が強く、藩内の不正を糺(ただ)す改革派のリーダーだ。妻の佐知(谷村美月)は心やさしく、二人の幼い子供も菜々になついている。

 藩政を支配し、市之進を陥れようと画策する轟(とどろき)平九郎(北村有起哉)が、菜々の父を死に追いやった男とわかり話は一気に動く。

 冷酷非情な轟は、葉室麟の原作では〈蛇〉のような男と描かれているが、不気味でサイコパス的な権力亡者を演じると、北村は怖いほどハマる。

 親の〈仇〉。菜々は父の無念を晴らし、風早家を守るために身を挺する。一途で健気。そして明るさもあわせもつ十六歳の少女が、ぴたり清原果耶に重なる。

 タイトルは、草むしりをしていた菜々が、庭の隅に咲く青い露草に見入っていたとき、佐知が声をかけ「俳諧では螢草と呼ぶそうです」と教えることに由来する。きれいな呼び名ですねと菜々がいうと、佐知は「それでいて儚(はかな)げな名です」と口にする。病弱な佐知は、このときすでに労咳(ろうがい)を病んでいる。谷村美月の着物姿が美しい。品があって、儚げ。いつのまにか、こんな役柄が似合う女優になっていた。

 仇を討つため、菜々は剣術指南役の壇浦五兵衛(松尾諭)に、剣の手ほどきを受ける。太り気味の体なのに、木刀を持つとまるで踊り手のように宙を跳ぶ五兵衛。彼が促すと、五兵衛そっくりに、バレリーナのようにシャープに動き、木刀を自在に操る菜々。とんでもない特殊能力を持つことに、五兵衛は気づく。

 他にも次つぎと菜々を支える人間が増える。娯楽時代劇の王道だ。大河ドラマの仰々しさとは対極をいく時代劇コンテンツを持つNHKの力を改めて知る。

 朝ドラ・ヒロインの座も近いが、いましばらく露草にも似た健気で個性的な少女を演じる彼女を観たい。

INFORMATION

『螢草 菜々の剣』
NHK総合 土 18:05~
https://www4.nhk.or.jp/P5823/